謙信と信玄は共に飯綱権現(荼枳尼天)を信仰していた

 強者は弱者を呪うようなことはしない。なぜなら、腹立たしい相手には武力でもって打撃を与えれば済む話だからである。

 人を呪うというのは、弱者が勝ち目のない強者に対して行える一つの攻撃手段といえる。

 では、互いに力が拮抗していたらどうなるか。

 古代から、国と国との戦いでは呪術は盛んに行われ、国家の命運が危機的状況に陥ると、様々な調伏の修法が執られてきた。

 調伏とは本来、自らの煩悩を克服するということだが、他国他者の悪意や煩悩執着を打ち砕く秘法としても使われる。

 調伏法には『転法輪法(てんぽうりんほう)』、『大元帥法(だいげんのほう』、『降三世法(ごうざんぜほう)』などがよく知られる。

 それらはいずれも特別な法であり、その呪詛は、やむを得ない場合にしか使うことが許されない最も特別な秘法中の秘法である。

 中でも代表的なものが大元帥法である。

 元々は古代印度神話でヴァイシュラヴァナ(毘沙門天)の眷属である鬼神で弱者を襲って食べる魔神アータヴァカに由来し、「荒野鬼神大将」、「森林鬼神」と漢訳される。

 そのアータヴァカが仏教に取り入れられると、絶大な力を持って国家を守護する明王となり、すべての明王の総帥という意味から大元帥と呼ばれるようになった。

 アータヴァカは密教においては大日如来の功徳により善神へと変じ、大いなる力は国家をも守護する護法の力へと転化させ明王の総帥となった。

 大元帥明王は明王の最高尊である不動明王に匹敵する霊験を有するとされる。