20日の米国市場で、COMEX上場の金先物の中心限月である4月限が1オンス=1007.70ドルまで急騰。終値は1002.20ドル(前日比+25.70ドル)で、昨年3月16日夜に電子取引で記録した史上最高値1033.90ドルが視野に入っている。この金価格高騰の背景をどう読むか。

 金という資産には一般的に、(1)インフレヘッジ資産、(2)ドル相場と逆相関で動く資産(ドルの信認低下時に買われやすい資産)、(3)信用不安が強まる場面での「質への逃避」対象、という3つの性質がある。

 (1)インフレヘッジ資産として買われやすいという性質は、足元の金価格上昇の主因ではない。同じ20日に発表された米1月の消費者物価指数は、総合ベースで前年同月比0.0%となった。筆者が予想しているマイナス圏転落は今回もかろうじて実現しなかったものの、通常用いられる下1ケタベースで前年同月比がプラスにならなかったのは、1955年8月以来のことである(下2ケタを取ると1月分は+0.03%となる)。コアベースは前年同月比+1.7%に鈍化し、2004年8月以来の低水準となった。

 G7の消費者物価指数を総合ベースで見ると、直近値(日本のみ12月分で他は1月分)で前年同月比が0%台以下にとどまっているのが、日本(+0.4%)、米国(0.0%)、ドイツ(+0.9%)、フランス(+0.7%)の4カ国で、過半数。そのほかの国は、+1%台が、カナダ(+1.1%)、イタリア(+1.6%)の2カ国。残る英国は+3.0%で、足元下げ渋っているが、イングランド銀行は中期的にはインフレ目標である+2%を大きく下回るという予測を、2月のインフレ四半期報告で公式に表明している。なお、ユーロ圏の1月分HICPは前年同月比+1.1%となっている。

 先進国を中心に今後危惧されるのが、インフレではなくデフレであることは明白だろう。中国が輸出ドライブをかけて「デフレを輸出」する懸念もある(2月17日「中国が世界経済を救う?」参照)。

 (2)ドル相場と逆相関で動く資産という性質も、このところの堅調な金相場の説明にはならない。ドルは対欧州通貨を中心に堅調地合いで、日本の昨年10-12月期の実質GDPの落ち込みのきつさが明らかになった後、2月中旬には、対円でも一時94.47円をつけるまで堅調に推移した。

 したがって、(3)信用不安が強まる場面での「質への逃避」対象として金が選好されているというのが、妥当な説明となる。日米欧の株価は、金融株の売りを軸に、安値を更新する流れとなっている。20日のニューヨークダウ工業株30種平均は続落し、終値は7365.67ドル(前日比▲100.28ドル)。2002年10月9日以来の安値水準にある。

 日本でもTOPIXが20日の終値で739.53となり、昨年10月27日に記録していたバブル崩壊後の最安値を更新。1984年1月以来の安値となった。週明け23日の東京市場でも、株価は軟調で、日経平均株価は7200円台に下落している。日経平均株価については、筆者は引き続き、終値で近く7000円を割り込むものと予想している。