最高裁判事に指名されたバレット氏(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

 リベラル派の最高裁判事ルース・ギンズバーグ氏の死去を受け、トランプ大統領は保守派のエイミー・バレット氏を最高裁判事に指名した。既に、上院での審議を終えたが、民主党の上院司法委員は10月22日の採決をボイコットした。このため、10月26日(月)の委員会承認を経ず上院本会議で共和党の賛成多数で承認される見込みとなった。

 大統領選の直前というタイミングでの保守派判事指名が選挙戦にどのような影響を与えるのか。米政治に精通した米在住の酒井吉廣氏に聞いた。(聞き手は編集部)

──米時間の10月22日の上院司法委員会で、最高裁判事に指名された保守派のバレット氏の採決が実施される予定でしたが、民主党議員が全員ボイコットしました。この結果をどう見ますか?

酒井吉廣氏(以下、酒井):民主党は、超リベラル(=プログレッシブ)の意見に引きずられましたね。第3回討論会の当日なので、あえてここで結論を出したくなかったのでしょうが、リベラルメディアの米ワシントン・ポストなども政治と司法は別と批判しているので、これは失敗でしょう。しかも、委員会決議は反対政党が2人出席すれば成立しますので、全員がボイコットする必要がありました。この党議党則による縛りも将来に禍根を残したことになります。

 私が最高裁判事の指名・承認のプロセスを見てきたのは、バレット判事で7人目です。また、故スカリア判事を含む現職・OB併せて3人の最高裁判事と面識がありますが、頭の良さと社会への理解度という点では、彼女が一番だと思います。また、日本人的な表現を使えば、人格・識見ともに申し分ない人だと言えます。

──バレット氏はどういう思想の持ち主でしょうか。

酒井:一言で表現すれば、「保守」です。ただし、「社会的な面での保守」です。つまり、キリスト教が教える伝統的に正しい生活をすることを基本としていると思います。一方で、LGBTも認めるなど、時代に即して米国人が楽しく、安全に、生活できることを「法と秩序」で守っていくという発想の人だと思います。

「政治的な面で保守」かどうかはわかりません。つまり、彼女について、今回の指名問題が出る前に、彼女を知る人から聞いていた話では、考え方にはリベラルと言えるところがあるほか、弱者救済の発想もあり、競争社会が良いと言い切る人ではないようです。

──妊娠中絶に否定的と聞きます。女性の中絶の権利を認めた「ロー対ウェイド判決」は変わるのでしょうか。

酒井:これは現実と見比べる必要があり、難しい質問です。8月の共和党大会で、元は民主党だった黒人看護師が「堕胎を勧めることで儲ける産婦人科」の下で堕胎手術の促進を手伝わされた事実を暴露しました。それが嫌で堕胎反対となり、共和党員になったと語っています。

 最高裁も、真に母親が母体を守るため、命を守るため、「やむを得ない事情」で堕胎することを認めないわけにはいかないでしょう。ただ、「堕胎」の条件を付けなければ逆に女性が堕胎医療ビジネスの犠牲になるリスクがあるということです。

 この問題が再び最高裁まで行く時には、改めて「堕胎」ということについての議論を含めなければならないと思います。