「コーチング」や「AI」など、組織開発の手法を紹介
人と人との関係性や相互作用に介入する「組織開発」のアクションには、組織が目指す姿や抱える課題に応じてさまざまな技法が活用されるが、その代表例として以下の5つを取り上げる。
●コーチング
コーチングは、一方的に指示や答えを相手に与えるティーチングと異なり、「解決策はその人の中に眠っている」というスタンスのもと、質問や対話を重ねながら、相手が自ら答えや気づきを見出せるようにサポートし、内面の変容を促すコミュニケーションの技法である。
●アクション・リサーチ
目に見えない組織内の関係性や相互作用の問題を調査やヒアリングによって可視化し、分析する「リサーチ」と、その解決を目指して「アクション」をとることとを表裏一体の循環的・連続的な変革のプロセスとして進めていくこと。組織開発の最も基本的な手法といわれる。
●AI(アプリシエイティブ・インクワイアリー)
アプリシエイティブ(Appreciative)は「価値を認める」、「真価がわかる」、インクワイアリー(Inquiry)は「質問・探求」を意味する。AIは、組織変革を促すために、問題や目指すべき姿とのギャップを追及するのではなく、逆に強みや可能性に焦点を当てるポジティブな問いや探求によって、当事者がそれを自ら認め、引き出すアプローチである。
●フューチャーサーチ
ホールシステム・アプローチとも呼ばれ、大規模なダイアローグ(対話)を通じた組織開発の技法の一つ。課題に関わるステークホルダー(利害関係者)が一堂に会し、利害の対立や不一致を超えてより望ましい未来に向けた合意形成を図る。3日間程度のカンファレンス形式で実施されるのが一般的。
●ワールドカフェ
名前の通り、カフェにいるようなリラックスした雰囲気の中、参加者は少人数に分かれたテーブルで自由に対話し、テーブルのメンバーをシャッフルしながら話し合いを発展させていく手法。社内での通常の会議が硬直しがちな組織では相互理解や集合知の創出を促す効果が大きい。
【企業事例】ヤフーが取り組む組織開発とは?
ヤフーが「組織開発」に取り組み始めたのは2012年から。変化がひと際激しい業界にあって、当時のヤフーは、業績こそ悪くなかったものの、ヒットする新規サービスを生み出せずにいた。その原因の一つとして指摘されたのが、事業の拡大とともに組織が肥大化し、活力や効率が低下する、いわゆる「大企業病」だった。経営陣の強い危機感を背景に、組織の自走力を強化するための組織開発をスタート。2013年から専門チームが各部門に対して組織開発を実施するとともに、部門を超えた連携も図られた。以下は導入されたさまざまな施策の一例である。
・定期的に上司と部下が対話する「1on1ミーティング」
・1on1ミーティングに参加する上司に向けた「コーチング研修」
・部下から上司へフィードバックする「アシミレーション」
・バリューや新人事制度の運用方法などを社員主導で考える「ワールドカフェ」
・3年ごとに従業員を部署異動させる「ジョブローテーション」
・関係者が一同に会し、部下の人材開発方針を議論する「人材開発会議」
現在では各部門の管理職に組織開発のナレッジが展開され、組織開発の取り組みが企業文化として定着しつつある。従業員のエンゲージメントが強化され、現場からも「組織が円滑に動くようになった」との評価が上がるなど、大きな改善につながった。
人材や働き方が多様化している今、従来の「組織」に対する捉え方を見直す動きが各企業で増えてきている。それに伴い、「組織開発」の重要性は年々高まっている。適切な施策に向けては、計画的に作り込んでいくことがポイントになる。「目的の決定」から「全社への成功事例の展開」までの6つのステップを踏み、組織の状況に合わせた手法を実践することで、会社全体で変化の激しい環境にも適応していけるだろう。
著者プロフィール HRプロ編集部 採用、教育・研修、労務、人事戦略などにおける人事トレンドを発信中。押さえておきたい基本知識から、最新ニュース、対談・インタビューやお役立ち情報・セミナーレポートまで、HRプロならではの視点と情報量でお届けします。 |