連載「実録・新型コロナウイルス集中治療の現場から」の第22回。2020年1月から現在まで、新型コロナウィルス感染症の臨床最前線で起こっていたことは? 讃井將満医師(自治医科大学附属さいたま医療センター副センター長)による感染症専門医・忽那賢志医師へのインタビュー(前編)をお届けする。
讃井 今回は国立国際医療研究センターの忽那賢志先生に、新型コロナウイルス感染症の臨床最前線で何が起こっていたのかを伺いたいと思います。
讃井 最初に、忽那先生がふだんどのような仕事をされているのかお教えください。
忽那 私は、国立国際医療研究センターの中の国際感染症センターで、輸入感染症(海外からウイルス、細菌などの病原体が持ち込まれて、帰国後に発症する感染症)を専門に診療しています。たとえば日本最初のジカ熱は私が診断しました。国際感染症センターでは、そういった日本にはなかったさまざまな感染症の診療経験を積めるので、それに魅かれて仕事を続けているといったところです。
恐ろしいことが起きていると実感
讃井 新型コロナ感染症との関わりは、どのような形で始まったのですか?
忽那 正月に武漢で海鮮市場を中心に謎の肺炎が流行っているというニュースを見て、年始にその情報を院内に周知したのが最初でした。国際感染症センターは輸入感染症を日本で一番多く診ている医療機関なので、患者さんが来る可能性も高いわけです。そこで、「武漢帰りの人がいたら感染症科に相談してください」「疑い患者さんが来たら、指定する経路を通ってこちらの部屋に案内してください」といった内容を院内に周知しました。
結果的に国内最初の症例は当院ではなかったのですが、1月下旬には当院でも初めて新型コロナ感染症の診療をしました。武漢からの渡航者でした。
讃井 初めて診察された時はどのような印象を持たれましたか?
忽那 気味の悪い影の肺炎だなと思いました。
そのすぐ後、1月23日にロックダウンした武漢から政府チャーター便で在留邦人が帰国することになりました(1月28日から2月17日まで計5便)。その帰国者全員900人近くのPCR検査を急遽当院でやることになり、病院の職員をあげて対応しました。すると、その中に陽性者が1%ぐらい見つかりました。興味深かったのは、当時はまだ無症候性感染者の存在がわかっていなかったのですが、チャーター便の帰国者の中に無症候性感染者がいたことです。世界でまだ誰も知らないことを、あのチャーター便の時にわかったんです。いろいろありまして学術誌に載ったのは4カ月ほど経ってからでしたが・・・。
忽那賢志(くつな・さとし)氏
感染症専門医。2004年に山口大学医学部を卒業し、2012年より国立国際医療研究センター国際感染症センターに勤務。感染症全般を専門とするが、特に新興再興感染症、輸入感染症の診療に従事し、水際対策の最前線で診療にあたっている。