導入することで期待できる採用力や従業員満足の向上

 企業が福利厚生を充実させると、「採用力の向上」のほか、「既存の従業員が会社に対して感じる満足度が上がる」、「業務の生産性が上がる」、「企業としての社会的信頼性が上がる」「従業員の健康維持を期待できる」といったメリットが考えられる。さらに福利厚生に力を入れることで節税効果も期待できる。以下で一つずつ説明しよう。

(1)採用力の向上
 待遇は給与だけでない。社内が働きやすい環境となるように細かく気を配っている、誕生日に休暇をくれるなど、企業が従業員のためにどれだけ尽くしてくれているかを示すものと言えるかもしれない。

 優秀な人材を引き寄せるには、福利厚生の内容を吟味して、獲得したいと考えている人材が好みそうな福利厚生を選んで導入すべきだろう。例えば、オフィスから徒歩10分以内に住む従業員には家賃を半分補助するとアピールすれば、「満員電車に長時間乗ることは時間の無駄」、「体力を消耗する大きな要因」と考えている人材が喜ぶだろう。また、自由に高さを変えられる机を導入し、眠くなったら立って仕事ができるようにするのも、何事も合理的に考える人材に喜ばれるかもしれない。

(2)従業員満足度の向上
 オフィスの居心地が良く、気分良く働ける環境になっていると、そこで働く従業員はより業務に集中でき、良いアイデアも浮かびやすくなるだろう。福利厚生でオフィスを「居心地の良い場所」とすることで、生産性が上がり、業績向上も期待できる。

 さらに、誰にも気兼ねすることなく有給休暇を取得でき、家族の誕生日といった特別な日にも休暇を付与する企業なら、働くべきときは集中して働き、休日はリラックスして英気を養えるだろう。

 このように、働きやすい環境を与えてくれる企業、休みたいときに自由に休ませてくれて、ほかにも特別休暇をくれる企業で働いていれば、従業員も自分が働く企業に対する満足度が高まり、そう簡単には離職しようとは思わなくなるはずだ。

(3)生産性の向上
 居心地の良いオフィスで働き、自由に休暇を取得できるだけでも、仕事に張り合いが出てくるものだ。さらに、福利厚生としてスポーツクラブを安価で利用できるようにすれば、休日に運動で汗をかいて、心身ともにスッキリとした状態で職務に励むことができるだろう。

 また、本格的に精神的な不調に陥る前に、精神的な健康の維持に有効なヨガのプログラムを用意するなどすれば、従業員全員、毎日健康で、気力が充実した状態で働くことができるだろう。その結果、職場の作業効率が上がり、企業の業績に良い影響を与える可能性も大いにある。

(4)企業の社会的信頼性の向上
 これまで説明してきたように、企業が福利厚生を充実させるということは、従業員を大切にするということにほかならない。到底こなしきれないノルマを押しつけられ、連日の徹夜業務で心身ともに疲れ果てて自殺してしまう。こんな事件を起こす企業は明らかなブラック企業であり、社会的信用やイメージは最悪のものになる。

(5)従業員の健康維持
 スポーツクラブの利用割引といった「健康を維持、増進」するための福利厚生だけでなく、病気を患って定期的な通院が必要になる社員や、精神的な不調に陥って業務が手に付かなくなってしまった社員をしっかりと支援する制度も用意すべきだろう。「病気になったらそのままほったらかし」では、従業員も安心して治療に取り組めない。「今は心身ともに健康になることだけを考えてください」と、企業から強いメッセージを出し、ゆっくり休息できる制度があれば、病気が原因で休職、退職という事態を防ぐことができるだろう。

(6)節税効果
 福利厚生にかかった費用が、一定の条件を満たして「福利厚生費」と認められれば、「経費」として計上できる。福利厚生費は、「役員・従業員の福利厚生を目的として、給料・交際費以外の間接的給付を行うための費用科目」となっている。経費として計上できれば、法人税の算出根拠となる利益を下げられるので、法人税が安くなるのだ。

 福利厚生にかかった費用を福利厚生費と認めてもらうには、「社内規定が整備されていること」、「従業員全体が対象となっていること」、「支出金額が、社会通念上妥当な範囲であること」の3つの条件を満たす必要がある。

デメリットはコストや管理の負担

 福利厚生はメリットばかりというわけではありません。福利厚生を充実させるときに考えられるデメリットについて説明する。

(1)コストがかかる
 まず、福利厚生はお金がかかる。節税効果が働いて法人税が安くなるといっても、節税効果だけで福利厚生の充実にかかる費用をまかなえるものではないだろう。一般社団法人 日本経済団体連合会の「2017年度福利厚生費調査結果の概要」によると、企業は従業員一人当たり、一ヵ月で平均10万8335円を負担していることが判明した。節税効果と、どうしても出て行く費用のバランスを見て、福利厚生の質をなるべく高く維持するようにしたいものだ。

(2)管理の負担
 福利厚生の一環として、何らかの制度を始めるとなれば、準備や運営、管理に人手が必要となる。制度開始後は、各従業員の利用状況を確認したり、制度の活用を促したりなど、手間がかかるのは付き物。従業員の人件費を考えて、この業務にそのまま当たらせるか、あるいは外部の業者を利用するかを考える必要があるだろう。

(3)全従業員を満足させられない
 良かれと思って用意した福利厚生が、一部の従業員しか利用できないものになってしまうということはよくあることだ。「育児休暇」や「家族手当」は、家族を養っている従業員にはありがたいが、1人暮らしの従業員には何の関係もなく、恩恵も受けられない。それなら、1人暮らしの従業員のための福利厚生を用意しようと考えるのも良いかもしれないが、またほかのところで不公平を訴える声が上がる可能性がある。

 このようなときは、外部業者が提供する「カフェテリアプラン」を活用するという方法がある。業者がいくつも用意しているサービスの中から、従業員一人ひとりが好きなものを選んで利用するというものだ。従業員自身が選んで利用するわけだから、不公平という声は上がりにくい。

(4)一度導入した制度を廃止するときは慎重に
 一度導入したが、さまざまな事情で廃止せざるを得なくなる福利厚生策も出てくるだろう。従業員が得をするだけのものなら、あまり気を遣うことはないが、従業員が生活設計の一部に組み込んでしまっている福利厚生策を廃止するときは、慎重に事を進めなければならない。

 存在している福利厚生策を変更、あるいは廃止するときは、従業員にすべて説明し、理解してもらい、書面で同意を得る必要があるのだ。同意を得る際に、代替制度を用意することになる可能性もある。同意を得ずに廃止すると、従業員が不利益を被る方向へと労働条件や就業規則を変更することになり、労働契約法上の「不利益変更」と見なされてしまう。不利益変更を強行すると従業員から訴えられ、法廷闘争になってしまう可能性もある。