テーマ2 変わりつつある個人と企業
柳谷 日本では、今までどちらかというと内側に向きがちだった意識が変わりつつあるように感じられます。例えば、米中貿易摩擦という言葉をよく聞きますが、「一番影響を受けるのは日本ですよね」というと、コロナ前は「え?」という顔をされることが多かった。ですが、コロナの影響でマスクが手に入らない事態に直面し、「実はすべて中国からきていたんだ」と気づいたわけです。自分事として驚くようなことが起こらなければ、なかなか考える機会は生まれません。“自分で考える”時代の始まりという意味では、ポジティブな変化が起きていると思います。
濱 そうですね。普通に生活していて何も起きなければ、疑問に思うきっかけがそもそもありません。疑問があったとしてもあえて口に出さないという側面もあったでしょう。それは「和」という日本の良い文化でもありますが、実際にマスクが手に入らないということになれば、自分で考えて行動しなければなりません。これまで暗黙の了解で済ませ、「なぜ?」を議論してこなかった問題を見つめなおす良い機会ではないでしょうか。
柳谷 企業もまた変わりつつあります。これまでは株主のためという意識が強く働いてきました。コーポレートガバナンス改革※2は企業の持続的な成長を促すものですが、株主に対する意識が強まるあまり、むしろ短期で成果を上げることに目が行きがちになっていました。
※2 コーポレートガバナンス(企業統治)の強化によって不祥事を防止し、生産性・ 収益性を向上させていくことを目指す取り組み。具体的には、取締役と執行役の分離、役員報酬の開示、社外取締役の設置などの取り組みが挙げられる。
図らずも、そこに一石を投じたのがコロナです。株主の前に、そもそも「何のために企業が存在するのか」という問いかけがあります。企業も経済の一員であるという前提のもと、社会のため、環境のために何ができるか。そういう議論が活発になり、10年以上の長期で目指すものを持ちつつあることはポジティブな変化といえるでしょう。
濱 株主の利益だけを考えて行動することは、結局株主にとって最良の結果にならないものです。社会や環境に配慮し続けられる企業は、社会的に尊敬され、優秀な人材を獲得し、より良い商品やサービスを提供し、利益を上げ続けるという好循環を生み出すことができます。それが結果として株主のためになります。
私も、自分が勤めている会社がそうしたことに真剣に取り組むことができていると感じたとき、誇らしく感じます。そしてお客様のためにより良い仕事ができるよう頑張ろうと思えます。企業は引き続き、社会や環境への理解を深め続けることが大切ではないかと思います。
柳谷 同時に、個人も「どのような社会にしていきたいか」という自問をするようになってきていますね。働く意義を考え、自分がいるべき場所を探し続ける意識が高まってきました。
濱 まずは自分が何を大切にしたいのか考える。その上で、勤めている会社が目指そうとすることと自分自身が目指したいことが一致している状態が幸せだと思いますので、できるだけ多くの人がそのような環境に身を置ける社会が実現すると良いですね。