連載「ニューノーマル時代の大学」の第3回。春から夏までの数カ月間、大学はほぼリモート教育に切り替わり、教師と学生とはパソコンやスマホを介して向き合うようになった。専修大学商学部の渡邊隆彦准教授が大学の教育現場最前線から、学生、教師、事務職員を含む、ヒトと大学との新しい関係を解き明かす。新型コロナウイルス感染症により急遽始まることになったリモート授業。大学教員サイドではどんな苦労があったのか?(筆者:渡邊 隆彦、構成:鍋田 吉郎)
突然降ってわいたコロナ禍により、われわれははからずも壮大な社会実験に突入しました。企業でいえばテレワーク、そして大学においてはリモート授業です。では、リモート授業の実施に関し、大学教員サイドでどんな苦労があったのでしょうか? 私が実際に体験したことを綴りたいと思います。
「今年度の前期は、授業は対面では行わず、すべてリモートで実施する」
大学の方針が示達されたとき、まっさきに私の頭に浮かんだのは、「放送大学の授業」や「NHKの語学番組」でした。自分がつくる映像や音声のコンテンツは、放送大学やNHKのクオリティを意識しなければならないのか・・・。
しかし考えてみれば、手厚いサポートスタッフを擁し、最新機材を使ってカメラマンが専用スタジオで撮影する、NHKのような「映像授業の重機甲師団」に、私のような「自宅マンションの部屋に今から竹槍をそろえようとしている」一介の歩兵が太刀打ちできる訳がありません。
餅は餅屋、マンガは集英社。長年それ専門で飯を食ってきた人に、短期間で追いつくのは難しいでしょう。私は発想を転換し、週刊少年ジャンプのような「緻密に計算された娯楽雑誌」ではなく、コミケ(コミックマーケット)会場でホチキス留めで売られている「つくりは素朴だけれどファンに寄り添う同人誌」のようなリモート授業を目指すことにしました。