投資はビジネスにとって最良の教科書
──それは痛快ですね。自分が働くより、ミッキーマウスやジェフ・ベゾズに働いてもらう方が確実にたくさん稼いでくれます。でも、その一方で株式を買ったからといって、ミッキーマウスに演技指導できるわけでも、ジェフ・ベゾズに経営指南できるわけでもありません。お金だけ出して人に働いてもらうというのに、何となく後ろめたさを感じる人もいると思います。その辺りに、日本に株式投資が根付かない理由があるような気がします。
奥野 それはどうして日本人に投資が必要なのか、という話につながります。もう自分が汗水たらして働いて得た収入だけでは、長い人生を全うすることができない可能性が高いのです。
もちろん自分で汗水たらして働くことは大切ですし、それが最も確実に収入を得る手段です。ただし、多くの人にとって40~50年の勤労期間で得られる収入は、おおよそ決まっています。人生100年時代といわれるいま、自分の勤労収入だけでは足りないのです。
高齢になっても体が元気なうちは働き続けることで、足りない分を補うという考えもあります。でも高齢になれば体力も知力も低下し、これまでできていたことができなくなる可能性は高まります。そういう高齢者を雇い続けることは、企業の競争力を削ぐことにもなります。
──私も実はなるべく長く働かないといけないと考えていました。でも例えば70歳を過ぎて、果たして自分が必要とされる場所や仕事があるかどうか……。
奥野 だったら自分で働く以外のやり方を考えないといけません。これが株式投資を通じて、自分以外の人に働いてもらうべき理由の1つです。
あとは、投資家になることで、資本家や経営者の視点を持てるようになるかもしれません。「この企業は競合他社と比べて強いのか」「社会にどのような価値をもたらしているか」と考えることで、世の中の見方が変わってきます。
そうすると自分の仕事も大局的な視点で見られるようになるでしょう。その意味で投資はビジネスにとって最良の教科書です。自分の仕事にもいい影響をもたらし、その結果収入が増え、さらに投資でも収入を得られるという相乗効果が期待できるのも投資のメリットです。
「好きな企業」に投資してはいけない?
──投資をすることでいまの自分の仕事にもいい影響があるというのは、ポジティブでいい考え方ですね。そうすると、投資するならやはり「好きな企業」や「応援したい企業」を選ぶべきですか。
奥野 それだときっと失敗します。
──どうして?
奥野 最初はそれでもいいと思いますよ。でも「好きな企業・応援したい企業」=「強い企業」というわけではないですよね。だから失敗するんです。そして二度と投資したくなくなる。
──う~ん、投資に好き嫌いを反映してはダメなのか……。
奥野 投資は強い会社を選ばないと。例えば、スポーツシューズメーカーを例にとると、私の心情的には日本企業のアシックスを応援したい気持ちはあります。でも実際に投資するかというと、しません。スポーツシューズメーカーに投資するなら圧倒的な競争優位性を持っている米ナイキを選びます。
株式投資において一番大事なのは会社の利益です。その利益を守り増やしていくための参入障壁が高いことが企業を選ぶうえで重要です。
私が考える利益とは、「人々が抱えている課題を発見し、それを解決することで得られる対価」だと思っています。利益が上がり続けるのは、人々や社会の課題・問題を解決し続けているからです。
そして人々が抱えている課題・問題を解決するということは、社会全体が少しずつ良くなっていることでもあります。つまり株式投資は、社会全体を少しずつ良くすることに貢献していると考えることもできます。