会社員が会社を守り、全員がアイデアを出し合える組織へ

 さて、このコロナ禍で在宅勤務をしていた人の中で、仕事もきちんとこなし、自己啓発もおろそかにしていなかった人達というのは、全体の何割くらいいるのでしょうか。

 知り合いの出版関係の方に話を伺ったところ、2月、3月は書籍の売上全体が巣ごもり消費でものすごく伸びたそうですが、4月、5月に特に売れたのは漫画とゲームの攻略本などのようでした。

 これが何を表しているか。多くの方は「自宅での時間を有意義に活用しよう」と、普段読めなかった分厚いビジネス書などを気合十分で買って在宅ライフを送り始めたものの、だんだんとテレビやネット、漫画やゲームの誘惑に負け、自由過ぎる環境に流され、会社から指示された仕事をやった後は、なんとなく過ごしてしまった。そんな方が多かったということではないかと想像が付きます。

 私自身も10年近く前、会社員からフリーランスに転身したのですが、当初は「これだけの時間働いていたら、フリーランスになったら、ものすごく稼げる」と思っていました。ところが、いざ自由の身になると、自由な生活に慣れてしまい、会社員時代のような量の仕事をやろうという発想を持つこと自体が難しくなっていきました。ただ、私の場合は、「会社員時代の収入の6割くらいになってもいいから、週3日稼働にして、あとの4日は、新しい情報を得るインプットの時間に充てたい」という発想で独立をしたので、それでもよかったのです。

 しかし、現状の在宅勤務をしている会社員の方達は、在宅でも給与は変わっていないはずです。私のような形ではなく、会社に出社していた時と同じ量の仕事をこなすか、あるいは、仕事が減った分、給与額を調整するか。そうしなければ、今の状態の組織では売上が減る会社が多いですから、いずれ資金が足りずに会社そのものの存続ができなくなってくるはずです。

 コロナ禍で会社と社員の関係はどう変わるか。私は、「会社員が会社を守る時代に入る」のではないかとみています。今までは、経営者は「社員は自分の仕事だけをしてくれていれば、会社の数字なんて知らなくてもいいし、むしろ余計な口出しをしてもらっても困る」という思考の人も実際に多かったでしょう。一方、社員も「会社のことは経営者がなんとかするものだから、自分は自分の仕事だけやっていればいい」という考えの人も多かったと思います。

 でも、この発想では、数年後にはその会社はなくなっている可能性が高いと私は考えています。経済的観点から見て新型コロナウイルスの影響が怖いのは「売上を上げさせない要素を多分に含んでいる」というリスクがあるところです。これが今までのどのリスクよりも限りなく脅威なのです。これまでの危機と違い、経営者一人が孤独に考えたところでどうにもならないレベルだと言えます。その会社に所属する「全員」が、「どうしたらこの状況を耐えしのぐことができるか」をそれぞれ考える。そして、全社員がアイデアを出し合える「組織」に、今後1年以内にはシフトしていかなければいけないと思います。

 これからの1年間、本連載では、どのようにすればそのような忍耐力のある、新型コロナウイルスに負けない強い組織にできるかということをお伝えしていきます。

著者プロフィール

流創株式会社 代表取締役 経営コンサルタント/作家 前田 康二郎

数社の民間企業で経理総務、IPO業務、中国での駐在業務などを経て独立。現在は「フリーランスの経理部長」としてコンサルタント活動を行うほか、企業の顧問、社外役員、日本語教師としての活動、ビジネス書やコラムの執筆なども行っている。著書は『AI経理 良い合理化 最悪の自動化』のほか、『スーパー経理部長が実践する50の習慣』、『職場がヤバい!不正に走る普通の人たち』、『伸びる会社の経理が大切にしたい50の習慣』『経営を強くする戦略経理(共著)』、『スピード経理で会社が儲かる』、『ムダな仕事をなくす数字をよむ技術』、『自分らしくはたらく手帳(共著)』など多数。節約アプリ『節約ウオッチ』(iOS版)も運営している。また、2020年6月26日に新著『つぶれない会社のリアルな経営経理戦略』が発売された。

 

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