M&Aの各段階で、できる限りのことをする

 経営陣をアセスメントする観点としてはさまざまなものが提唱されていますが、ここでは最大公約数として、「経験」、「リーダーシップ」、「資質」の3つに整理しています。そのうえで、各観点においてチェックすべき要件を定め、それらを見るために取り得る手段を、M&Aの段階毎に整理しています。

 デュー・ディリジェンス(DD)においては、対象会社にリクエストして得た情報の精査に加え、デスクトップ・リサーチを通じて、周辺情報を含めた経営陣の実績や評判に関する情報を、可能な限り集める必要があるでしょう。リーダーシップや資質については(アセスメントなども含めた)本人との直接的なコミュニケーションを通じた把握によるところが大きく、DDの段階でそこまで踏み込んだ調査ができることはまれです。そのため、トップ同士の面談の機会を活用するなどして把握をはかります。
 晴れて契約締結がなされた後からDay1までの間(クロージング期間)は、DDではアクセスできなかった情報を含め、更に踏み込んだ精査を続ける期間といえます。100日プラン・統合計画の策定における行動観察に加え、継続的なトップ面談も必須になるでしょう。クロージングが完了して無事にDay1を迎えると、対象となる経営陣との関係性のうえで専門業者が提供する外部アセスメントの活用が容易になります。そのため、なるべく早い時期での実施が推奨されます。トップ面談を通じてより多面的に経営陣の見極めを行うことが可能になります。

 加えてDay1以降は、図表1に示すような視点から定常的な情報収集を継続する必要があります。そうした日々の情報は、経営陣に対するガバナンスにおいて最も強力な「交代(任免権の行使)」というカードを切るために必要かつ重要な評価根拠となります。

 ここで示したのはあくまで一例であり、各段階で実施できる事項はM&Aの態様や対象会社との関係性によっても大きく異なってきます。重要なのは、経営陣の評価にあたり、その客観性・適時性・妥当性を担保するために、自社としての観点や選定基準、そして案件の状況に応じた「最低限やるべきライン」と「理想的なライン」を定めておくこととです。

M&Aの成功に向けて人事部門が取り組むべきこと

 M&Aをおこなう企業では、その成功に向けて、人事部門でも人事デュー・ディリジェンス(HRDD)やその後のPMI(買収後の統合)に、(程度の差こそあれ)大きな力を注いでいるはずです。その努力を確実な成果に繋げるためにも、買収先の企業や事業をリードする経営陣には、買い手の戦略を理解し、その実行に最適な能力・スキル・経験を持った人材をあてる必要があります。M&Aの初期の段階から経営陣の見極めとガバナンス構築いう観点を持ち、自社なりの「To-do」を整備しておくことをおすすめします。
 日本企業のIn-Out案件においては、既存の現地経営陣に引き続きその企業の経営や事業運営を委ねるケースが多いことに鑑み、本稿では、ある種の「セカンドベスト」としてその経営陣を見極め、ガバナンスを効かせるためのアプローチをご紹介しました。一方で、企業が追求するM&Aの目的によっては、買収先企業の現地経営陣を通じた間接マネジメントのみで、人事制度・ポリシーはノータッチというアプローチでは限界があることも事実です。この限界を乗り越えるためには、グローバルで事業展開している多くの欧米企業がそうであるように、グローバル(グループ)共通の人事制度・ポリシーを整備(※)したうえで、それを拠り所にした自社のPMIのあり方を模索していく必要があります。こうした点についてはまた別の機会にお伝えできればと思います。

※グローバル人事管理については、本連載の第6回「グローバル人材マネジメントの実現に向けた必修科目『ポリハー』とは何か」でご紹介しています。

著者プロフィール

EYアドバイザリー・アンド・コンサルティング株式会社
ピープルアドバイザリーサービス マネージャー/リワード&アナリティクスチーム
山田 俊輔

日系プラントエンジニアリング会社の人事部勤務の後、米国ビジネススクールへの留学を経て2013年にEYに入社。人事制度やタレントマネジメント、M&Aをはじめとする組織変革時の人事・労務関連支援(HRトランザクション・サービス)を中心として多様なプロジェクトに従事。人事部において評価、報酬、人材育成といった各種制度の企画・導入から運営まで一貫して携わった経験から、人事の現場に寄り添ったコンサルティング支援を得意とする。

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