安倍晋三首相は4月24日、新型コロナウイルス感染症対策本部(以下、政府対策本部)で次のように述べた。
「感染者の治療や検査に当たっている病院においては、院内感染の防止をさらに徹底していただくため、今後、医療防護具を国が直接、優先的に提供することとします。そのためのウエブを活用した状況把握システムの構築、体制整備を早急に進めてください」
筆者は、この発言をテレビニュースで聞いて驚いた。
今や、病床の逼迫、院内感染、医療資材や人手の不足など全国の医療現場の窮状をテレビは繰り返し報道している。早晩、このような状況になることは分かっていた。
それを見越して、政府は、これまでに状況把握システムの構築などの体制整備をしておくべきであったのではないのか。
今になって首相(対策本部長)が医療現場の窮状を知ったのか、と驚いたのは、筆者だけではないであろう。
事実、政府対策本部は、2月13日策定した「新型コロナウイルス感染症に関する緊急対応策」の中で、「マスク、医薬品等の迅速かつ円滑な供給体制の確保」に言及した。
さらに、2月25日の「新型コロナウイルス感染症対策の基本方針」の中で、「今後の患者数の増加等を見据え、医療機関における病床や人工呼吸器等の確保を進める」、「マスクや消毒液等の増産や円滑な供給を関連事業者に要請する」ことに言及している。
それなのに、現時点で、医療防護具が逼迫しているということは、政府は2か月前に言及したことについて何ら手を打たなかったのか。あるいは、関連事業者が政府の要請に応じなかったのか。真相は分からない。
また、新型コロナウイルス感染症に対する政府の危機意識が低く初動対応が遅れたとの指摘がある。
他方、日本の近隣国である台湾と韓国は、今般の新型コロナウイルス感染症の対応において欧州各国から模範例とみられている。
両国に共通しているのは危機管理体制の周到さと、感染症リスクへの感度の高さである。その背景には重症急性呼吸器症候群(SARS)や中東呼吸器症候群(MERS)の感染症の対応に失敗した苦い経験があると考えられる。
具体的には、台湾は、前回のSARSの世界的な流行(2002~2003年)の時の感染者は346人、死亡者は37人であった。
また、韓国は、2015年の東アジアにおけるMERSの流行の時の感染者は186人, 死亡者は36人であった。ちなみに、日本のSARS及びMERSの感染者及び死亡者は共にゼロであった。