「立地」と「物件の分散」で空室リスクを抑える
実物不動産のオーナーになると、部屋を貸すことによって、相続時に評価額を約3分の1程度下げることができます。相続税評価額は新築で約50%。貸し出せば評価額はその70%にもなります。8000万円の新築では8000万円×50%×70%=2800万円ぐらいになります。節税効果は確かに大きい。
しかし、問題は「空室リスク」です。人が入居しなければ借入金の返済が滞る。修繕費もケチるようになり、物件が古くなったのに家賃を下げられないといった負のスパイラルが発生します。こうなると物件を手放したくても誰にも買ってもらえず、家賃収入がないまま借金だけを払い続けることとなり、最悪の場合は破産もありえます。
相続の問題も重要です。借入残がどれだけあるのかなど、相続人ともいろいろ相談しなければなりません。
資産運用の世界では、よくリスク分散のためにさまざまな商品に資金を振り分けることをします。不動産投資にも同じことが言えます。一棟ものの物件なのか、区分所有のマンションなのか。あるいは新築か中古かなど、分散の方法はいろいろ考えられます。
相談者のように、新築のアパートだけに多額のお金を費やすのではなく、中古アパートのリフォームや区分所有マンションも考えることで、リスクを分散できます。
空室リスクを避けるために最も重要なことは、「立地」です。
九州であれば、全国的な人口減少が問題になる中で今も人口が増えている福岡市などに物件を求めることが、リスクを軽減することになるのです。福岡市の市街地の物件価格は、現状でも値崩れしていません。需要が途絶えていないので、空室リスクや家賃が減少するリスクを最小に抑えることが期待できます。
当時、相談者の奥様から何度か、購入をやめるよう説得してほしいと依頼をいただきましたが、最終的に説得を押し切った形で、2棟目のアパートの購入に踏み切りました。今は、ご夫婦とも病気で体調を崩して、物件の管理なども厳しい状況となっています。
退職後の資産運用では、老後の生活をより楽しむことが大切だと思います。「これからは楽ができるね」と希望を胸にアパートの経営を始めても、物件選びを間違えてしまうと、相談者のご夫婦のように、老後の楽しみを閉ざされてしまう現実があるのを知らされました。
新型コロナウイルスの終息の見通しが立たず、この状況が長きにわたって続くと、いくら経済動向の影響が低いといわれる現物不動産投資であっても、入居者が家賃を払えなくなるほどの厳しい生活が強いられ、オーナーが資金繰りに窮することも考えられます。不動産のオーナーにとっても厳しい状況ですが、仕事がなくなり収入が途絶えた入居者にとっては、住家の崩壊につながります。政府には現金給付など、思い切った経済対策を踏み切っていただきたいものです。