金刻羽教授は1982年、北京で生まれた。中国人民大学の付属高校を卒業後、米ハーバード大学経済学院に留学。そこで学士、修士、博士を取得後、ロンドン経済学院の経済学教授に就いた。1911年創刊の世界で最も権威ある経済学術月刊誌『アメリカン・エコノミック・レビュー』に、若手では珍しく、これまで2度も論文が掲載されている。

 世界の経済・金融界のリーダーたちが彼女の発言に注目するのは、必ずしも彼女一人の実力のためではない。彼女の父親は、金立群(ジン・リーチュン)AIIB(アジアインフラ投資銀行)総裁なのである。いわゆる「親の七光り」だ。

ひた迫る大恐慌の影

 金立群総裁は1949年、江蘇省常熟に生まれた。北京外国語学院英文科で学士、修士取得後、財政部に入省。主に国際金融畑を歩き、1998年から2003年まで財政部副部長(副大臣)を務めた。その後、マニラに本部を置くADB(アジア開発銀行)に副総裁として出向。ADBの総裁は代々、日本人が務めている。

 2014年10月、金立群氏は、習近平政権がADBに対抗するため新たに設立するAIIBの設立準備事務局長に就任。57カ国の代表をまとめ上げ、2016年1月に、北京に本部を置くAIIBが設立された。そして金氏は、初代AIIB総裁に就任したのである。

アジアインフラ投資銀行(AIIB)総裁で、気鋭の経済学者・金刻羽氏の父でもある金立群氏(写真:アフロ)

 ちなみに日本とアメリカは、「公正なガバナンスと透明性が確保されていない」として、AIIBへの不参加を決め込んでいる。だが、昨年7月のAIIB総会で、ついに参加国は100カ国の大台に乗った。AIIBの影響力は絶大であり、すでにADBの68カ国を凌駕している。

 そのトップに君臨しているのが、金立群総裁というわけだ。そして金総裁の娘が、金刻羽教授なのである。彼女の論文や発言には、常に父親の「影」がチラつく。

 そうしたことを鑑みれば、うがった見方をすれば、金刻羽教授の見解はバックに控える父親の見解、そしてAIIBのバックに控える中国政府の見解ではないかとも思えてしまうのだ。

 G20の電話会議に参加した20人の世界の首脳が、まだ誰も言い出せない、もしくは言い出したくない「世界恐慌」。だがそのリスクは、ひたひたと迫っている――。