(北村 淳:軍事社会学者)
中国衛生当局が新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の人から人への感染を確認したことを公表した(2020年1月20日)ことを受けて、世界各国が新型コロナウイルス感染対策を開始してから、すでに6週間近くが経過した。本稿執筆時点では、世界保健機関(WHO)はこのウイルスによる感染症(COVID-19)をパンデミックと断定するのを躊躇している。
莫大な数の国民が危険にさらされるパンデミックやエピデミックとみなされる感染症への対処を、国家安全保障の問題と明確に位置づけている国々は少なくない。とりわけ世界最大の軍事国家であるアメリカは、感染症対策を国防に比肩する国家安全保障問題の1つととらえ、強力な感染症対処システムを保持している。
その具体的事例の1つが、連邦政府衛生当局に設置されている武官組織、すなわち「公衆衛生局士官部隊」(PHSCC:Public Health Service Commissioned Corps)だ。
戦地にも災害地にも赴く「公衆衛生局士官部隊」
アメリカ合衆国連邦法では、8つの武官組織(Uniformed Services)が制定されている。
連邦法で定められている8つの武官組織は、そのうちの6つがいわゆる軍隊である。国防総省が管轄する「海軍」「海兵隊」「陸軍」「空軍」そして「宇宙軍」と、国土安全保障省が管轄する「沿岸警備隊」がそれに当たる。
それら6軍に加えて、商務省が管轄する「海洋大気局士官部隊」(National Oceanic and Atmospheric Administration Commissioned Corps)と、保険福祉省が管轄する「公衆衛生局士官部隊」(PHSCC)の2部隊も武官組織とされている。