和平合意に署名後、互いに握手するアメリカのアフガニスタン和平担当特別代表・ザルメイ・ハリルザド氏(左)とタリバンの創設者の一人・アブドル・ガニ・バラダル師(写真:Abaca/アフロ)

(山田敏弘:国際ジャーナリスト)

 アメリカ史上最長の戦争が18年ぶりに終わる——。2020年2月、米メディアは一斉にアフガニスタンでの紛争が終結する可能性があると報じた。

 というのも、2020年2月15日、アメリカとイスラム武装勢力タリバンは和平合意締結に向けて、「暴力行為を減らす」ことで合意したからだった。29日には両者が、カタールの首都ドーハで和平の合意文書に署名し、アメリカと北大西洋条約機構(NATO)は14カ月以内に部隊を撤退することになった。これまで泥沼化していたアフガニスタンの状況がいよいよ改善するのではないかと期待が高まった。

 もっとも、大統領選を控えるトランプは、カネのかかる戦争を止めて米兵を帰国させる公約を前進させ、外交面での評価を高めようという狙いがあるとみられている。ちなみにアメリカはアフガニスタンでの対テロ戦争(麻薬撲滅や米軍負傷者の支援なども含む)で2001年から2兆ドル費やしたと試算されている。

 しかし、である。29日の合意の後にも、タリバンは以前のように攻撃を再開し、米軍もそれに対抗して空爆を実施した。合意で盛り込まれていたアフガニスタン政府とタリバンの捕虜の解放について両者の言い分が噛み合っておらず、それもタリバン側の攻撃再開を後押ししたのだという(3月10日になり、アフガニスタンのガニー大統領は、タリバンの捕虜を解放することを表明した)。

 それでも今回の合意は和平に向けた第一歩になる。交渉は、今後も引き続き続けられる予定だ。ただ、アフガニスタンで和平を実現するのは一筋縄ではいかないだろう。和平に向けた動きに横槍を入れようとする別のアクターの存在があるからである。

 横やりを入れようとしているのは、隣国のパキスタンだ。パキスタンが米国とタリバンとの合意を妨害すべく、アフガニスタンでよからぬ動きをする可能性がある、との指摘がなされているのだ。

有志連合軍の攻撃により2カ月で崩壊したタリバン政権だったが

 本題に行く前に、まず簡単にアフガニスタン紛争について振り返ってみたい。

 まず米軍がアフガニスタンのタリバン政権に攻撃を加え始めたのは2001年。同年9月11日に起きたアメリカ同時多発テロの首謀者で、国際テロ組織アルカイダの最高指導者だったウサマ・ビンラディンやアルカイダのテロリストらをアフガニスタンが匿っており、身柄の引き渡しなどにも応じなかった、という理由からだった。2001年10月、アメリカ主導の連合軍は、国連の安保理決議第1368号を根拠に、自衛権を発動してアフガニスタンへの攻撃を開始した。これによって、当時アフガニスタンに存在していたタリバンによる政権は、2カ月後に崩壊した。