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 延期に延期を重ね、ついに実現したブレグジット(英国のEU離脱)。ブレグジットは世界経済に何をもたらすのか。防衛省防衛研究所教官、英王立防衛・安全保障研究所訪問研究員などを歴任した鶴岡路人氏の著書『EU離脱―イギリスとヨーロッパの地殻変動』から一部を抜粋して解説する。

(※)本稿は『EU離脱―イギリスとヨーロッパの地殻変動』(鶴岡路人著、ちくま新書)より一部抜粋・再編集したものです。

ブレグジット後のEU内パワーバランス

 イギリスの離脱後に目を向けたときにEUが直面するのは、EU内部のパワーバランスの変化である。その主たる結果は、大国の影響力増大であり、ドイツの影響力増大が焦点の一つとなる。

 従来のEUでは、ドイツ、フランス、イギリス(そしてイタリア)が主要大国として一定の均衡を維持していたが、そこから一国が抜けるのである。そうである以上、ドイツにその意図がなかったとしても、同国の影響力が増大することは避けられない。

 もちろん、これが直線的に進むかは不透明である。ドイツや独仏協力が主導するヨーロッパ統合への反発や警戒感は根強いからである。しかし、主要大国の一つが抜ければ、他の大国の相対的地位が上昇すること自体は否定し得ない。

 ブレグジットに伴うEU内のパワーバランスの変化に関しては、さまざまな計算方法があるが、例えばEUにおける政策決定の中核であるEU理事会(閣僚理事会)については、いずれも、ドイツ、フランス、イタリア、スペイン、ポーランドなどの影響力が増大するという試算結果になっている。

 EU政治の実態は、加盟国間のさまざまな連合形成とその間の駆け引き、そして多数派工作である。これが、事務レベルから首脳レベルまでさまざまな段階で日常的に行われている。そうしたなかで特に中小国は、新たな政策連合形成のための模索を始めている。

 注目されるものの一つは、「ハンザ同盟2.0(新ハンザ同盟)」と呼ばれる、北欧(デンマーク、フィンランド、スウェーデン)、バルト(エストニア、ラトヴィア、リトアニア)、オランダ、アイルランドの計8カ国の中小国の動きである。

 8カ国は2017年後半から連携を強めており、2018年3月には、非公式の財務相会合を開催し共同声明を発表した。