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 昨年4月、働き方改革関連法案が大企業を中心に施行されました。その主要な内容はご存知の通り、有休5日間取得の義務化と時間外労働の月45時間上限規制です。労働者からはメリハリのある働き方ができるようになった一方で、残業代削減により収入が減少したという声も聞こえてきます。労働時間削減が先行した働き方改革で、日本企業はどうなったのでしょうか。今回は、大企業における働き方改革の実態に迫ります。

 本当に「働き方改革」は進んだのか

 2019年9月の一般社団法人 日本経済団体連合会(経団連)の発表によると、2016年と比べ2018年は大幅に総労働時間・実労働時間ともに削減が進んだことがわかりました。また、年次有給休暇についても5日間未満の取得者が減少したと報告されています。このように労働時間の面では「働き方改革」は一定の進展が見られたと言えるでしょう。

 ところで、そもそも「働き方改革」とはいったい何なのでしょうか。改めて厚生労働省の「働き方改革」に関するホームページのぞいてみると、以下の定義が書かれていました。

 投資やイノベーションによる生産性向上とともに、就業機会の拡大や意欲・能力を存分に発揮できる環境を作ること~中略~この課題の解決のため、働く方の置かれた個々の事情に応じ、多様な働き方を選択できる社会を実現し、働く方一人ひとりがより良い将来の展望を持てるようにすること。(厚生労働省ホームページより)

 どうも目的がはっきりとしない内容です。別の厚生労働省(厚労省)のパンフレットでは、「働き方改革」は「働く方の置かれた個々の事情に応じ、多様な働き方を選択できる社会を実現」することだとされています。つまり、多様性のある働き方が真の目的だと言えそうです。では、働き方が多様化すると日本にどんなメリットがあるのでしょうか。これまでの厚生労働省の取り組みでは、労働時間削減により男性が育児に参画し、女性がより一層働けるようになりました。また近年は定年延長の検討が進み、国はシニア層の労働力化も狙っている状況です。

 どうやら労働力不足に伴う「労働力のシェア」が裏側にはありそうです。労働力をなるべく引き出し、シェアすることで国力を維持することが政府の一番の狙いなのではないでしょうか。

残業削減の目的化が招いたもの

 労働力のシェアが「働き方改革」の背景に潜む真の目的であるとするならば、企業と労働者は、互いに労働力を高め合い、共有する取り組みを行ったのでしょうか? 残念ながら、今回の働き方改革関連法の施行は、残業削減の実現をまず進行させました。

 私の周りの大企業の人事担当者に話を聞くと、「残業削減のために人事や管理部門が残業している」という声がいくつも上がりました。ある大手企業の人事部では、残業を削減するために管理職が「残業パトロール」を行うことで、管理職自身の残業が増加しました。また、ある企業の事業部では「早く帰ろう」という横断幕を作成するために残業した社員がいたとのことです。「働き方改革」の本来の目的が見失われ、法令対応のために残業時間削減が目的となったのが、この2019年でした。

 さらに、これまで残業代で稼いでいた社員からは「収入が減った」という声が聞こえるようになりました。収入が減れば社員の働くモチベーションは大きく下がります。一方で、収入が減ったことに対し、企業は大きな補填をしたわけではありません。そこで、残業代の減少に対応するために、今年は残業削減で減った人件費を原資に、「残業還元」という名目でボーナス支給や教育訓練費の上乗せといった取り組みも各企業で積極的に行われました。とはいえ、こうした取り組みは一時的なものであるため、「労働力のシェア」という目的達成に貢献したわけではないでしょう。

 単なる残業時間の削減以上に、「労働力のシェア」や「労働生産性の向上」という真の働き方改革に真剣に取り組んだ企業はどれだけあったのでしょうか。