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「ルール」が通じない国々に囲まれた日本は、自分たちの身を守るためにどうしたらいいのか。「ウェストファリア体制」は、日本人が野蛮な世界で生き残るのに必要な武器だと言ってよい。世界を劇的に変えたウェストファリア体制誕生の背景と意義を、憲政史研究家の倉山満氏が解説する。(JBpress)

(※)本稿は『ウェストファリア体制 天才グロティウスに学ぶ「人殺し」と平和の法』(倉山満著、PHP新書)より一部抜粋・再編集したものです。

「文明国の通義」

 甚(はなは)だしい勘違いが蔓延しています。「古い時代よりも新しい時代の方が文明的である」との思い込みです。

 少し歴史を調べれば、文明が退化した事例など、山のようにあります。その最たる例が、中世です。そもそも、古代・中世・近代の三区分は、西洋人が自分たちの歴史を説明するために考えた、便宜的な物差しです。

 文明的なギリシャ・ローマが古代。キリスト教の公認と国教化によってローマ帝国の文明が廃れた暗黒の世紀(Dark Age)が中世。ルネサンス(再生)によって文明が回復してからが近代、です。

 この一事を以てしても、歴史が常に発展するわけではない、という厳然たる事実は一目瞭然だと思います。

 この意味での中世など、日本には存在しません。同時に、ルネサンスも必要ありません。むしろ、旧ローマ帝国の版図だった国以外の歴史には、古代だの中世だのは何の関係もない区分でしょう。

 しかし、近代は違います。現代、地球上のすべての国はつながっています。世界は一つなのです。「自分は、グローバル化は嫌いだ」と言っても、今さら鎖国など不可能です。

 少なくとも、我々日本人は、外国との関わりなくして生きていくことはできません。

 こうした現代の秩序、「近代」を世界中に押し付けてきたのが、ヨーロッパ人です。現代世界の三大国は、アメリカ・中国・ロシアですが、この三カ国ですら、かつてヨーロッパ人が作ったルールの上でプレーヤーを演じているにすぎないのです。

 本書『ウエストファリア体制』では、このルールの成り立ちと変容、なぜそのようなルールが必要とされ、どのように世界に広がり、そして今に影響を与えているかを解説しています。

 そのルールは「ウェストファリア体制」と呼ばれます。別名は「文明国の通義」、「マトモな国ならば守るに決まっている掟(ルール)」のことです。

 最初に結論を言います。千年を超える暗黒の中世を克服したヨーロッパ人は、後に「ウェストファリア体制」と呼ばれる掟を確立します。

 そして、これを全世界に押し付けました。ヨーロッパ人の力が衰えるとともに、非ヨーロッパの国である、アメリカ・ソ連(ロシア)・中国が台頭し、掟そのものが変容します。大きく歪められているけれども、掟そのものは残存しています。