「採用コンプライアンス」を正しく理解しよう
続いて、採用時のコンプライアンス違反例と遵守ポイントを紹介しよう。
■提出書類
「戸籍謄(抄)本」や本籍が記載された「住民票(写し)」を提出させることは、1.「本籍・出生地」の把握に該当することにつながる。労働基準法施行規則第53条第1項に規定される労働者名簿の記入事項についても、「本籍」は削除されている。把握することが必要な情報は「住民票記載事項証明書」(※)を提出させることで足りる。
また、「マイナンバー」の提供を求めるのは、社会保障・税に関する手続書類の作成事務が発生した時点が原則である。そのため、雇用契約を締結する前(採用面接時)に事業主から応募者にマイナンバーの提供を求めることはできない。
(※)「住民票記載事項証明書」とは「住民票」の項目のうち申請者が希望する項目のみを記載してもらうことができる書類のことである。
■書類選考
「現住所(自宅付近)の略図等の提出」を求めることは、身元調査に利用される恐れもあり認められていない。通勤経路の把握などのために用いる場合は、入社後に必要に応じて把握すれば足り、採用選考時に把握する合理性はない。
「帰省先」は本人の「出身地」を意味することが多く、それがどこであるかは適性・能力に関係ない。本人不在時の連絡先を把握したいのであれば「不在時連絡先」などとすることが適当である。
エントリーシートや選考試験の作文の題材として「私の家族」「私の生い立ち」「尊敬する人物」など本人の家庭環境や思想・信条に関わることを間接的に書かせていないかも十分留意する必要がある。
■採用面接
「宗教」「支持政党」「人生観・生活信条」等、思想や信条に関わることを採否の判断基準とすることは、憲法上の「思想の自由(第19条)」「信教の自由(第20条)」などの精神に反することになる。思想・信条に関わることは、憲法に保障され本来自由であるべき事項であり、それを採用選考に持ち込まないことが必要である。
また、選挙権が18歳以上に引き下げられたことから、高校生に対する採用面接の際、「選挙に行ったか?」等の質問が行われているが、政治的な活動に関する質問については就職差別につながるおそれがある。
採用面接で既往歴(過去の病歴)を質問することも要注意だ。
・過去の病歴が現在の業務を遂行する適性・能力の判断には通常結びつかないこと
・完治により就労に問題がない場合でも病気等のもつ社会的なイメージにより不採用としてしまうおそれがあること
・企業が適切配置というつもりで確認していても、応募者、特に既往歴がある方からすると、そういった質問をされることにより不採用とされてしまうのではないかという不安を生じさせること
等から就職差別につながるおそれがある。
近年はCSR(社会的責任ある活動)の観点からも「人権尊重」や「差別撤廃」に対する取り組みが重視されている。今後、各企業がどれだけCSRに取り組んでいるかがますます問われるようになり、それによって企業価値が評価されるようになってくるものと考えられる。
「就職」は人生を左右し兼ねない重大な決定に関わるといえる。本人の適性と能力のみを基準とした『公正な採用選考』を行うことは、今まで以上に企業に強く求められていくはずだ。
著者プロフィール
1981年10月生まれ。二児の母。 <執筆実績> |