10年ほど前にベストセラーになった本に、神田昌典氏の『あなたの会社が90日で儲かる!』があります。いわゆる「感情マーケティング」。批判的な方は「煽りのマーケティング」と呼ぶ手法を提案した本です。この本の主張の1つが、今でも喉に小骨が刺さったような感じで私の心の中に残っています。
怪しい商売を行う者たちに儲けさせて、真面目な商売をする者が割を食っていいのか? そうじゃない。怪しい商売をする者たちが使うノウハウを自分もマスターして、彼らの儲けを分捕って正しい商売をすべきではないか・・・、確かそんな趣旨だったと記憶しています。
感情マーケティングで日本の霜降り肉を売り出せないか
こうしたマーケティングは、神田氏が紹介する前から国家レベルで行われていた節があります。年配の方は、昭和30年代に日本でパンが普及していった時代、コメに対するネガティブキャンペーンが繰り広げられていたのを記憶しておられるでしょう。
特に慶応義塾大学医学部教授の林髞(はやしたかし)氏が「米を食べると馬鹿になる」と言ったことは大きな影響を与えたとされています。私が子どもの頃には、「米を食べると太る」なんて言説も幅を利かせていました。
こうした言説がいかにデタラメなものかは、現実が証明しています。またこれだけのネガディブキャンペーンがあっても、日本人がコメを捨てなかったのはネガティブキャンペーンの限界を示していると言っていいでしょう。
朝食用のパンも、「コメが悪い」からではなく、時間のない朝に手早く取れる朝食として普及しました。それでも、ネガティブキャンペーンがパンの市場拡大に一定の役割を果たしたのは間違いないと思われます。
似たようなことを霜降り肉、いや日本食で行えないでしょうか? 手段は考えようによってはダーティーかもしれない。しかし、目的はクリーンなキャンペーンを仕掛けるということです。
キャンペーンごときで世の中を変えられるのかと問われれば、変えた事例は「ある」と申し上げます。