(柳原 三佳・ノンフィクション作家)
「生後2カ月の孫を激しく揺さぶって死亡させた」として傷害致死罪に問われ、一審で懲役5年6カ月の実刑判決を受けた山内泰子さん(69)に、大阪高裁は10月25日、逆転無罪の判決を言い渡しました。そして、11月8日、大阪高検が上告を断念した旨を発表し、無罪が正式に確定しました。
「揺さぶられっ子症候群」仮説が引き起こす深刻な問題
山内さんの弁護団の一人で「SBS検証プロジェクト」の共同代表である秋田真志弁護士は、逆転無罪判決が確定したことを受け、同プロジェクトのサイトに次のコメントを発表しています。
「この3年間に、山内さんやそのご家族が味わった苦しみからすれば、決して手放しで喜べません。しかし、この判決が、SBS仮説の見直しにつながり、冤罪や誤った親子分離を生まないきっかけとなることを期待したいと思います」
秋田弁護士が指摘する「SBS仮説」の深刻な問題については、
『虐待』の濡れ衣、もし着せられそうになったら(JBprss 2019.4.11)
https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/56077
のほか、『私は虐待していない 検証 揺さぶられっ子症候群』(柳原三佳著・講談社)でも詳しくレポートしていますが、今回の大阪高裁判決は、乳幼児の脳に<①急性硬膜下血腫 ②脳浮腫 ③眼底出血>という3兆候が見られれば、すぐさま「乳幼児揺さぶられ症候群(SBS)=虐待」を疑え、という理論の危うさにも踏み込んでおり、今、日本で進行している同様の事件の裁判に大きな影響を与えることは間違いないでしょう。
では、なぜこの裁判で逆転無罪判決が下されたのでしょうか。法廷で目の当たりにした出来事をレポートしたいと思います。