とはいえ怒りが収まらないのは競歩、マラソンのために準備期間と都民の血税を含めた莫大なカネを費やした開催地の東京都だ。小池都知事だけでなく、多くの東京都民だって血税と労力を無駄にした今回のゴタゴタにははらわたが煮えくり返っている。

 ただ、カタールの世界陸上の失敗を酷暑となる東京五輪で再び繰り返してしまえばIOCへの批判はまず避けられなくなる。「五輪は秋開催にするべき」との議論が再燃するのは必至だ。

「真夏開催」を変えられないのはスポンサーNBCへの忖度

 しかしながらIOCとしては今後、五輪の真夏開催が危うくなることだけは是が非でも回避しなければならない。最大のスポンサーである米放送大手のNBCユニバーサルのご機嫌を損なうわけにはいかないからだ。

 2014年にはNBCの親会社であるケーブルテレビ最大手コムキャストが約76億5000万ドルもの法外な取得金を投じ、2032年までの五輪放映権を獲得したと発表している。真夏の五輪は同時期にスポーツのビッグイベントが行われない米国において視聴者を集めやすい放映コンテンツとなる。

 大金を払ってくれた「NBC様」が真夏の五輪開催を強く望んでいるのだから、自ら開催地に立候補した日本および東京都ごときがワーワーと文句を言うな――。これこそが今回の騒動におけるIOCの本音なのである。

 日本陸連(JAAF)の幹部はIOCの〝アスリートファースト〟ならぬ〝IOCファースト〟の現状について、こう嘆く。

「それでも近年、真夏の札幌は東京よりも暑い日がある。そういう意味では暑さの不安を開催地変更だけで完ぺきに拭い去れるとは言い切れない。これからレースに向けて札幌でも十分な暑さ対策はしなければいけないはずだ。開催日まで残り少ない中、果たしてそれができるのか。長い期間と莫大な費用を投じ、十分な議論も重ねて暑さ対策をしてきた東京のほうが結果的に安全な環境下にあるのではないかとの指摘も実は聞こえてきている。

 にもかかわらず札幌でのレース中、暑さによって〝万が一〟の事態を呼び起こしてしまったら本末転倒だろう。

 しかしそういう最悪のケースになったとしてもIOCは『こっちは札幌に変更を訴え、やれるべき手は打った。それでアクシデントになってしまったのだから五輪開催地に立候補した日本側の責任』と開き直るはずだ。完全に商業団体と化したIOCは今や、このような集団に成り下がっている」