長野県軽井沢町に、日本の教育関係者の間で大きな注目を集める学校がある。学校の名前は「ユナイテッド・ワールド・カレッジISAK(アイザック)ジャパン」(以下、UWC ISAK)。3年制の全寮制国際学校(インターナショナルスクール)である。
UWC ISAKは、国際バカロレア・ディプロマ・プログラム認定校でありながら、卒業時には日本の高校卒業資格も取得することのできる国際高校だ。加えて、日本で唯一のUWC(ユナイテッド・ワールド・カレッジ=世界18カ国の非営利国際学校の集合体)加盟校でもある。
代表理事は小林りん氏。大学卒業後、モルガン・スタンレー、国際協力銀行、ユニセフなどを経て2014年に同校を設立した。6年目を迎えた今年(2019年)は、84カ国・200人の生徒が在籍している。
UWC ISAKの教育理念は「自ら成長し続け、新たなフロンティアに挑み、共に時代を創っていくチェンジメーカーを育む」。小林氏は、どんな分野でもどんな立場からでも、新しい価値観を生み出せる人、ポジティブな変革を生み出せる人材を育てたいという思いで学校づくりに挑んできた。
2019年9月13日、独立系グローバルM&AアドバイザリーファームであるGCAが開催した会員制クラブの特別セミナーに小林氏が登壇し、特別講演を行った。その特別講演およびGCA代表取締役 渡辺章博氏とのパネルディスカッションから、未来を切り拓き社会を変革するリーダーに求められる資質・能力とは何かを探ってみたい。
小林氏が語るUWC ISAK誕生の経緯
《学校設立を目指した理由は、私の原体験にあります。高校時代に奨学金をいただいてカナダへ留学し、メキシコシティに住む友達とスラム街を訪れる機会がありました。それまでも経済格差や貧困問題は十分理解していたつもりでしたが、友達のすぐ先にある現実の格差、機会の不平等に圧倒され、同時に大きな憤りを感じました。自分は多くの縁や運に恵まれてきた、それを自分のためだけではなく、より多くの人のために使うべきではないか。そのときはまだ漠然としていたものの、強い使命感を感じた17歳の夏の出来事でした。
2つめの大きな原体験が、ユニセフ在職当時のフィリピンでの教育支援活動です。フィリピンでは初等教育は無償ですが、貧困層の子供たちは、生き延びるために学ぶ時間を惜しんで働いている。そういった子供たちのために、ユニセフが夜間や週末に学校を開校しています。高校時代の体験から、貧困層の子供たちに教育機会を提供する仕事には、大いにやりがいを感じていました。しかし、マクロレベルで見ると、30万人いるといわれるストリートチルドレンのうち、ユニセフが救済できる子供は9000人。貧困層救済だけで根本課題が解決できるのだろうかという疑問も持ち始めました。