格差是正と有給休暇の取得率改善には英断が必要だ
雇用形態に関係なく、同じ職務であれば同じ賃金を支払うべきであり、正規雇用と非正規雇用の待遇や賃金に格差があってはならない……。いわゆる「同一労働同一賃金」の原則も、働き方改革における重要テーマだ。こちらは、大企業と派遣会社については2020年4月施行、中小企業は2021年4月施行と、まだ猶予はあるものの、雇用システム全体の見直しなど企業運営に大規模な影響を及ぼすものであり、多くの企業がいち早く対策に乗り出している。
(4)格差是正施策「正社員への一本化」
従業員の雇用形態を「正社員に一本化する」という英断を見せたのがクレディセゾンだ。複数に分類されていた社員区分を撤廃、パートタイマーを含む全従業員を無期雇用の正社員としたのだ。日本航空も客室乗務職における契約社員制度廃止・正社員化に踏み切った。またスターバックスコーヒージャパンや三越伊勢丹など、小売り・外食産業でも、有期契約・パートタイムから無期契約・正社員への転換拡大が目立つ。
イケアジャパンのように、最初から「フルタイムか短時間勤務かにかかわらず、すべての従業員が正社員」という体制を取っている企業もある。
(5)格差是正施策「同一労働同一賃金」
またコストコホールセール・ジャパンでは、非管理職である場合、正社員、パートタイム、アルバイト、すべて時給制とし、同じ基準で金額を算出(管理職は年俸制)している。同一労働同一賃金の究極形ともいえるシステムだ。
ただし、政府が求めている格差是正は、単に賃金だけにとどまらず「休暇や福利厚生などにおいても同じ待遇を確保すべし」としていることを忘れてはならない。
「ずる休み」でもいい。休みを取りやすくするのが鍵
休暇といえば、「年次有給休暇(年休)の取得率改善」も、働き方改革が掲げる目標の1つ。具体的には労働基準法が「法定の年次有給休暇日数が10日以上の全ての労働者に対し、毎年5日、年次有給休暇を確実に取得させる必要がある」と改正されたため、その対策は必須事項。また労働時間の短縮を図るために法定外休暇(年休とは別に就業規則によって会社が任意に定めた休暇)の導入に積極的な企業も増え始めている。
特に目立つのは、特別な名称・名目を持つ休暇の増加だ。従来からあったリフレッシュ休暇やボランティア休暇などに加え、親孝行/子どもの学校行事参加/孫の相手など家族サポート型の特別休暇が代表格だが、その他にも数多くのユニークな年休が誕生している。
(6)休暇取得施策「ユニークな年休」
マーケティング/PRを手掛けるサニーサイドアップでは、好きな人への告白やプロポーズなど“勝負日”に休める「恋愛勝負休暇」、失恋したら会社を休んでも許される「失恋休暇」を制度化。WEBメディア運営のパスクリエイトは、「ずる休みさせて下さい」と正直に申告すれば許可される「ずる休み休暇」を導入している。
自社の事業内容や特色と密接に関係した休暇制度を導入する企業も多い。地域に根差した経営で知られる株式会社コヤマ(医療用具の製造など)では、地域のお祭りに参加しやすくするための「祭りだ!わっしょい休暇」を、第一三共株式会社では骨髄バンクへの登録・検査、提供時の入院などにあてられる「骨髄移植ドナー休暇」を導入。ペットフードの日本ヒルズ・コルゲート株式会社では、ペット死亡時に忌引き休暇を取得することが可能だ。
(7)休暇取得施策「長期休暇取得制度」
長期休暇を取得しやすくし、リフレッシュや新しい経験、知見の獲得につなげる企業も増えている。営業日に連続5日間(前後の土日を合わせれば計9日間)休める博報堂の「フリーバカンス休暇」、自身のキャリアを見つめ直すためなら最長3か月どんなことに使ってもいいヤフー株式会社の「サバティカル休暇」など、長期休暇を取りやすくする配慮を見せる企業も増加。
各種マーケティングを企画するトライバルメディアハウスは、1か月の連続有給休暇を与えて普段はできないアメイジングな体験を強く推奨する「浮世離れ休暇」を導入している。逆に、急な要件などで細かく休めるように「年休取得は1時間単位で可能」とするキッコーマンのような企業も現れた。
労働時間の短縮策、格差是正への取り組み、年休取得率を改善する工夫……。いずれも企業経営陣や就活生・求職者からの注目度は高く、マスコミや、厚生労働省の「働き方・休み方改善ポータルサイト」(※2)などで事例として紹介されることも多い。ユニークな施策を打ち出して広く知らしめることができれば、「わが社は働き方改革に本気です」とアピールし、企業の評価を上げることにもつながるはず。働き方改革に関する施策は、大胆に進めたいものである。
【出展・関連リンク】
※1:働き方改革実施状況に関するアンケート(HR総研)
※2:働き方・休み方改善ポータルサイト(厚生労働省)
HR Trend Lab所長・土屋 裕介 氏のコメント
政府が働き方改革という概念を打ち出し、法整備を進めたことによって各企業の中で「働く」という人生の中での多くを占める活動を否が応でも意識することになりました。その結果、この記事にあるように多くの企業で実践がなされています。個人的にこれはすごく良い傾向だと捉えています。
ワーカホリックの如く働く事が一種の美徳とされてきた日本のワーカーが、多様な働き方が認められるビジネス環境を背景にイノベーティブで画期的な商品や考え方のできる人材に進化する時がようやく来た!とワクワクしています。
ただし、働き方改革として単純に労働時間を減らしただけでは、もっと働きたい人のエンゲージメントを下げる結果を招くこともあります。自社の社員一人ひとりに合ったまさに多様な働き方改革の方法を模索する事が大切ですね。
土屋 裕介 氏
株式会社マイナビ 教育研修事業部 開発部 部長/HR Trend Lab所長
国内大手コンサルタント会社で人材開発・組織開発の企画営業を担当し、大手企業を中心に研修やアセスメントセンターなどを多数導入した後、株式会社マイナビ入社。研修サービスの開発、「マイナビ公開研修シリーズ」の運営などに従事し、2014年にリリースした「新入社員研修ムビケーション」は日本HRチャレンジ大賞を受賞した。現在は教育研修事業部 開発部部長。またHR Trend Lab所長および日本人材マネジメント協会の執行役員、日本エンゲージメント協会の副代表理事も務める。