甲子園が耳をつんざくような凄まじい大歓声に包まれた。
11日の阪神タイガース対東京ヤクルトスワローズ戦。8回一死一塁の場面で代打としてコールされたのは、今季限りでの阪神退団を表明している鳥谷敬内野手だった。そしてヤクルト・平井の投じた5球目のフォークをとらえ、左翼線へと運ぶと一塁走者の梅野隆太郎捕手は一気に本塁まで激走。適時二塁打となり、鳥谷は今季94打席目にして初打点をマークした。
スタンドでは涙を流す虎党も数多くいた。すでに4点をリードしていた場面で点差的にも決して無理をする必要性はなかったとはいえ、難しいタイミングのところで躊躇せずに一塁から本塁生還を果たした梅野のアシストには〝何としてでも鳥谷さんに打点をプレゼントしたい〟という執念が感じ取れた。これだけファン、そしてチームメートからも愛され、尊敬の念を持たれている生え抜きの名野手は今の阪神になかなかいない。なぜ、その鳥谷はチームを去らなければいけないのか。理解に苦しむと言わざるを得ない。
「引退勧告」を拒否し移籍を明言
すでに知られている通り8月31日、鳥谷自身が大勢のメディアの前で「『引退してくれないか』と言われました。タイガースのユニホームを着てやるのは今シーズンで最後です」と打ち明け、大騒動となった。その2日前の同月29日、鳥谷は球団首脳3人と極秘で緊急会談を行い、引退勧告を受けたものの現役へのこだわりが強いことから「他球団へ行きます」と即答していたという。
在阪メディアの中には、緊急会談の席上に球団社長、球団本部長、球団副部長のトップ3人が出席し、シーズン終了を待たずして極力早めに鳥谷へ直接頭を下げて引退をお願いしていたのだから、球団側の動きについて「特に非礼ではない」「むしろ最善の策を尽くしたはずだ」などと擁護する媒体も複数ある。その場で鳥谷本人がOKする運びとなっていたならば、球団側は今季の残り試合の中で引退試合開催の段取りも組めると踏んでいたようだ。
しかし、そんな球団側の読みも完全に当てが外れる格好となった。実はここにきて阪神球団内部からも「そもそも(球団幹部が鳥谷に)『ユニホームを脱いでください』と言ったこと自体が失礼な話ではなかったのか」と眉をひそめる関係者が続出し始めている。