リファラル採用は会社にとってどう寄与する?

白潟 まずメリットとして挙げられるのは、採用コストがかからないことです。次に、選び方さえ間違わなければ、会社にマッチした人材を採れる可能性が高いこと。会社にマッチした人材なら必然的に定着率が高まります。ここ3~4年で当社は150社ほどサポートをしてきましたが、今のところ退職者がひとりもいません。その結果だけを見てもリファラル採用のメリットはお分かりいただけると思いますが、リファラルリクルーティング流のやり方として会社の「魅力」と「課題」を必ず可視化し、説明するようにしています。

 会社の方は、実は自社の魅力や課題に気づいていないことが多いです。ですから私どもがリファラル採用プロジェクトのメンバーとして参加させていただき、ヒアリングを通してそれらを洗い出すようにしています。

 知人から会社の魅力を伝えられれば、まったくの他人に言われるよりも説得力がありますよね。それで「へぇ、なかなかいい会社だね」ということになりますが、もちろん会社はいいところばかりのはずがありません。ですからその後に、課題となる部分もきちんと伝える。特に「給料が安い」「離職者が多い」「マネージャーが少ない」の“課題御三家”は包み隠さず説明します。

 リファラル採用で一番恐いのは「ダブル退職」です。課題を正確に伝えなかったため、採用された人が「話が違うよ」と退職してしまう。すると紹介した人も会社に居づらくなり、やめてしまう。リファラル採用はこの危険性が非常に高いので、とにかく課題はしっかり伝えることが欠かせません。

 もちろん課題ばかりでは「この会社に入りたい」という気持ちになりません。ですから、「この課題に対しては3年後までに解決する予定です」といった具体的な中期計画をまとめたシートを作成しておくことも重要です。「魅力」「課題」に「中期計画」を加えて口説いていくと、結果的に会社の魅力は高まっていきます。

 また、リファラル採用のデメリットには、採用までに時間がかかることが挙げられます。そのため計画通りに物ごとが進まない、採用部長・人事部長泣かせの制度と言えるでしょう。イメージ的には、中小・ベンチャーがリファラル採用だけで年間10名を採ることはほぼ不可能です。どうしても10人以上欲しい場合は、リファラル採用にプラスして他の手法も加える必要があります。

 リファラル採用は基本的にエンゲージメントの高い社員にしか期待できません。当社では社長とエンゲージメントの高い社員だけでプロジェクトを組むようにしています。

 誤った人材を採用してしまった場合も、会社はその人を辞めさせることができません。ですから、いくら信用ある社員から紹介された人材だといっても、通常の採用の手順もしっかり踏み、慎重に判断すべきだと思います。そしてもうひとつ、「自社の優秀な社員よりもさらに優秀な人材は、リファラル採用では採れない」と考えてください。自分よりも優秀な人を紹介したがる社員は、普通に考えればいませんよね。もちろんすべてがそうだとは言い切れませんが。

清水 リファラル採用を成功させるためには、経営層を巻き込まなければいけないとよく言われます。人事担当の方から支援依頼があった時、どのように巻き込むためのフォローをされているのですか?

白潟 当社がおすすめするのは「気づかせ力」のアップです。「社長はリファラル採用ってご存知ですか?」という質問から入って、「であれば、その方向でやってみよう」と言わせてしまう方法です。

 絶対避けたいのは「社長、最近はリファラル採用というのが流行っているらしいですよ。お金もかからないし、やってみたらどうですか?」といった持ちかけ方。リファラル採用の本質に気づいてもらえるまで根気よくキャッチボールするのが大切です。キーワードは「忍耐」です。

 また、リファラル採用の成功の3条件として「社長と会社を好きな社員が1人以上いること」「絶対に嘘をつかないこと」「耳の痛い話でも社長が聞けること」があります。私どもは、この3つを完全にクリアしていただける企業としか取引をしないようにしています。

髙森 ほとんど白潟さんにお話しされてしまいましたが、重ならない点をお伝えします。リファラル採用のメリットは、転職の潜在層、つまり具体的に転職活動をしていないけれど、新たなチャレンジの機会を探している人材を採用できることです。実際、私もそうでした。

 当社の調べによると、「転職は考えていなかったが、話を聞いて面接を受けた」という人が全体の50%、「もともとその会社に興味があった」という人は30%しかいないという結果が出ています。

 デメリットとしては、しっかり理解しておかないと、誤解を生む可能性が高いことが挙げられます。たとえば声をかけた人に「カジュアルに話すだけでいいみたいだよ」と伝えて、その言葉通りに無防備で話を聞きに行ったら「ロジカルシンキングが足りないので不採用です」と言われた、ということが実際にありました。“魔法の杖”である反面、関わるすべての人がしっかり共通認識を持っていないとマズいなと思っています。

清水 当社の飲食業のクライアントで、毎年6,000人を採用しているところがありました。しかしこの会社では、年間5割近くが辞めていたのです。それがリファラル採用を始めると同時に、離職率が2割程度に減った。従業員のエンゲージメントにも効果があったのです。そういった具体的な事象を、社長や人事担当者にプレゼンして、うまく上の人たちを巻き込んでいくことがリファラル採用を浸透させるポイントかもしれません。

白潟 先ほど髙森さんのお話に「不採用」という言葉が出てきましたが、当社では「不採用」「不合格」という言葉はNGです。「ご縁がなかった」もダメ。「あなたの活躍できる場を提供できませんでした」くらいのトーンがいいと思います。

 また、面接は結果にかかわらず最終まで必ずやった方がいい。もし紹介者とかなり親しい人を不採用にするなら、社長が直筆の手紙を書くぐらいの気遣いも必要でしょう。そうすることでリクルーターのモチベーションが上がります。