フィリピン海軍の旗艦は、退役したアメリカ沿岸警備隊巡視船(出所:フィリピン海軍)

(北村 淳:軍事社会学者)

 フィリピンのドゥテルテ大統領は、テレビのインタビューに答えて、「南シナ海情勢を解決するためにアメリカは米比相互防衛条約第4条を発動して米海軍第7艦隊を南シナ海に送り込み、中国海軍と対峙すべきである」と呼びかけた。

無言の威嚇で人工島基地軍を建設

 本コラムで事の発端から継続して取り上げてきているように、中国は南沙諸島に人工島を7つも誕生させ、それらを海洋軍事基地群へと変貌させてしまった。フィリピン政府は、2014年初めに中国が人工島建設の動きを見せている状況を国際社会に訴えた。

 とはいっても、アメリカ海軍と南沙諸島の領有権紛争当事国以外には関心は持たれなかった。それからわずか5年しか経っていない現在、南沙諸島のパワーバランスは決定的に中国優勢となっている。

 中国が人工島、そして軍事拠点へと変貌させてしまった7つの環礁は、すべてフィリピン側も領有権を主張している。フィリピンの立場からは、ここ5年の間に中国が「フィリピンの島」で勝手に埋め立て工事を始め、滑走路や灯台、それに港湾施設などの建設を推し進めて、人工島基地群を造り出してしまった、ということになる。

 ただし中国は、そのような海洋軍事施設を誕生させるにあたり、フィリピンに対して一切の軍事攻撃を加えてはいない。だが、中国とフィリピンの海洋戦力を比較すると中国軍が質量ともに圧倒的に強力であることは明らかであり、中国側は海洋戦力による無言の威嚇を背景として人工島基地軍の建設を進めたとみなせる。

 中国は、ミサイルや砲弾を発射するような軍事攻撃は控えているものの、軍事的威圧という形で軍事力を行使しながら、南沙諸島の7つの環礁に対する実効支配を確立したのだ。

南沙諸島の現状(黄色が中国の実効支配)
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