1月9日にコンスタンチン・サルキソフ山梨学院大学大学院教授が書かれていた「天然ガス紛争、被害者はどちら?」に続けて、その後のロシア・ウクライナのガス紛争の成り行きと今後について触れたい。
事の経緯を繰り返すと、2009年のウクライナ向けガス価格とヨーロッパ向けでのウクライナ領通過輸送料の話がまとまらなかったために、1月1日にまずウクライナ向けのガス送付が停止され、1月7日にはヨーロッパ向けの通過輸送が止まった。
この辺りから流石に欧州連合(EU)も腰を上げて仲介に乗り出さざるを得なくなり、協議の結果、EUからロシア・ウクライナ双方のガス輸送状況を監視する人員の派遣が決まり、その監視の下で13日にヨーロッパ向けの輸送再開に一度は漕ぎ着けたかに見えた。
しかし、ガスプロムの指定する輸送条件はのめないとウクライナが主張し、これは実現しなかった。両国への批判が強まる中で、ロシアのメドベージェフ大統領が関係国をすべて集めて会議を開くことを提案した。これに合わせてウクライナのティモシェンコ首相がモスクワに赴き、18日に漸く両者が基本点に合意し、20日にヨーロッパ及びウクライナに向けてのガスの輸送が再開された。
西側諸国のロシア批判は意外に少なかった
今回のこの騒動では、2006年初めのウクライナ向けのガス遮断に際して、「エネルギーを他国に自分の意思を押し付けるための政治手段としてロシアは使っている」といった西側の政府・メディアの厳しい批判は見られなかった。
その理由は米ブッシュ政権の政治喧伝が最早その影響力を失っていたからとも言える。これは2006年の対ロシア批判も所詮は政治的意図に彩られていたに過ぎないのではないかとも思わせる。
今後も今回のような問題が繰り返されるのだろうか。
2008年の1立方メートル当たり約180ドルからガス価格は引き上げられた形となり、経済危機に見舞われているウクライナが果たして代金を今後も払い続けることができるのかに不安がつきまとう。
新たな合意内容ではヨーロッパ向けのガス輸出で使われている価格算定式が導入され、価格は四半期ごとに原油・石油製品の国際価格に連動して見直され、2009年の第1四半期ではヨーロッパ向けの20%引きに当たる1立方メートル当たり360ドルと決められた(通過料は2009年は据え置き)。
2010年からは、ガス価格も通過料も欧州並となる。また、ウクライナ内部のユーシェンコ大統領とティモシェンコ首相の政争が、この問題に限ったことではないが、ウクライナの行政と立法のいずれの機能も大きく低下させてしまっている。
今後再び同じような問題は起こるのか
今後また問題が起こった際に、有効な経済政策と対策が迅速に策定・運用され得るのかにも疑問符がつく。
ユーシェンコ大統領とティモシェンコ首相の対立には、従来ロシアからウクライナに向けてのガス供給や、ウクライナからのガス輸出に携わってきたロスウクルエネルゴというハンガリーの企業が顔を出す。
ガスを大量に輸入せねばならないウクライナが自らその輸出を行うことはそもそも奇異な話である。輸入と輸出での大きな価格差が関与する企業の収益となっているところから、このガスプロムとウクライナの実業家が株主となっている謎だらけの企業については利権問題が常に取り沙汰されてきた。