2009年、ロシア関連の最初のトップニュースは、ロシアの天然ガス独占企業、ガスプロムが、ウクライナへの天然ガス供給を1月1日から停止したというものだった。ウクライナはかつてソビエト連邦を構成していた国の1つである。ロシアは再度、隣国との「天然ガス戦争」に踏み切ったのだ。

 2006年にガス価格交渉が決裂し、供給を停止された時、ウクライナはもちろん、米もロシアを猛烈に批判していた。だが、今回はその時ほどの激しい反応は見せていない。

 当時、「ロシアがエネルギー供給を政治圧力に使用している」と糾弾していた米国務省も、今回は「交渉を通じて問題の決着を見出してほしい」と穏やかに反応している。ロシア産の天然ガスで需要の20%を賄う欧州各国は、供給の削減を恐れて「1日も早く問題を解決してほしい」と訴えるだけだ。

持てる国と持たざる国

 この問題は複雑で、エネルギー資源の偏在、世界的な経済危機の影響、外交の駆け引きなど様々な問題が絡み合っている。そのため、問題の真相を特定するのは困難である。

 まずエネルギー資源の偏在に関して言えば、世界の天然ガス確認埋蔵量(2004年時点)の27%はロシアにある。中東地域の埋蔵量は40%でロシアを上回っているが、一国の埋蔵量としてはロシアが世界一だ。ちなみにアジア太平洋地域の埋蔵量は8%しかない。欧州と欧州に近接するアジア(中東抜き)は9%。北米と中南米は8%である。

 ソ連崩壊後、経済改革と民主化の道を歩んでいたロシアにとって、エネルギー資源は大きな拠り所である。政府が内政や外交の政策を立てる際の、いわば土台ともなっていた。

 特に天然ガスはロシアにとって重要なエネルギー資源だ。ロシアの石油埋蔵量は世界の6%。天然ガスの比率の方がはるかに高い。また世界全体の平均可採年数を比べると、石油の46年に対して天然ガスは63年。環境負担も天然ガスの方が低い。さらには世界需要が急速に増えているが、価格は石油ほどには暴落していない。

 そのため、石油の開発に関しては国内外の民間企業の参加を容認しているが、天然ガスに関してはガスプロムを半国営の独占企業とし、世界最大規模のエネルギー企業にすべく後押ししていた。ガスプロムはロシアで生産される天然ガスの90%を押さえ、パイプラインのすべてを所有している。ロシアの税収の約25%は、ガスプロムが支払っている。欧米では、「ロシアは “gazprom.com” だ」と皮肉る声も聞こえる。

 このように天然ガス資源を豊富に持つことは、メリットだけではなくデメリットもある。まず隣の国、特にその国が資源を持たない貧しい国である場合、関係がどうしてもぎくしゃくとしたものになる。問題は、国際世論がどうしても持たざる国の味方となることだ。実際はそうでなくても、「大国が弱いものをいじめている」という印象を与えてしまうのだ。確かにかつてのロシアは、親米国であるウクライナを敵視する時期もあったが、最近は対応を変化させている。