この法律の意義は大きい。実はオランダでも現在、「持続的で深い鎮静」の問題がとりあげられようとしている。というのも、これまで、「持続的で深い鎮静」は、緩和医療などの一環であり、それで患者が死に至ったとしても、オランダでは特別に調査の対象とはされていなかった。手続きの正否が問われていたのは、致死薬の注射で意図的に死に至らせる安楽死だけだった。というよりも、オランダではそもそも緩和医療はそれほど積極的に取り組まれてはいなかった。

 ところが、2002年にオランダで安楽死法が成立して、それまで暗黙のうちに行われていた安楽死が法的に認められるようになるのと同時に、安楽死を実施した医師には、詳細な「記録」を残す義務が課せられるようになった。その手順があまりにも煩雑なために、最初の年である2002年は安楽死の数が激減した(3500件から1800件へ)。

 そして安楽死の代わりに増えたのが、緩和医療、特に持続的な深い「鎮静」だったのだ。終末期の耐えがたい苦痛を緩和することを目的とし、鎮静剤を投与して意識水準を下げる鎮静は、オランダでは通常の医療の範囲内にある。そして鎮静の際には、栄養チューブなども抜かれることが多いため、「ソフトな安楽死」とも呼ばれる。だがこの場合は、特別に報告する必要も、罪を問われることもないのだ。

 そのため現在、オランダの調査委員会はこの持続的な深い鎮静に注目し始めている。なぜなら、この件数が増大しているからである(2001年7800件から、2015年2万6900件へ)。

死に至るまでの「深く持続的な鎮静」の新たな権利

 一方フランスは、これまで国をあげて安楽死に反対し、患者の意思を尊重しながら、緩和ケアを施し、自然死を迎えさせるという方向で進んできた。1999年、患者に検査や治療を拒否する権利を認めた「緩和ケア権利法」、2002年には,苦痛軽減のために緩和ケアを受ける患者の権利を認める「患者の権利法(クシュネル法)」、2005年の過度の延命を拒否する権利を導入した「レオネッティ法」、つまり、事前指示書、代理人の意見、医師チームによる合議に基づいて、治療の中止を認め、モルヒネなどの鎮痛剤を用いての緩和ケアを施し、自然死を迎えさせる法律、いわゆる「尊厳死法」というように、安楽死へと向かわない方向で法を整備してきた。

 しかし、2016年2月あらたな法律により、新しい権利を作り出し、方向を転換することになった。新法の「クレイス・レオネッティ法」は、終末期の患者のために、「死に至るまでの深く持続的な鎮静の新たな権利」を是認する法律である。

 その目的は患者の苦痛と過度の延命治療を避けることである。そして鎮静の措置が可能なのは、患者の求めがあり、重篤で治療不可能な患者で、「その余命が短期と定められていて、治療を受け付けられないほどの苦痛がある場合」と、「治療しても短期の余命を余儀なくされ、耐えがたい苦痛を与える治療の停止を患者が求める場合」である。

 さらに、自らの意思を表すことができない状態の患者について、新法は「持続的な深い鎮静」を行うことを合議の上で医師に認めた。というのは、医師は過度の延命治療の拒否の名において生命維持治療の中断を決めているので、そこから生じる患者の苦痛を避けるためである。

 この法が、5月20日朝に、ランベール氏に適応されたのである。「持続的な深い鎮静」の実施とともに、生命維持装置が取り外されたのである。ランベール氏を過度の延命治療から解放し、苦痛なく死につかせるためには、ソフトな安楽死としての「鎮静」を患者の権利として認め、しかも「偽装された安楽死」と非難されないためには、医師に(死を意図した)鎮静を行うことを許容する法律の制定が必要だったのである。

参考:世界の終末期医療の最新データー2019.04.12
https://www.maruzen-publishing.co.jp/info/n19241.html