この事件は「フランスのシャイボ事件」と言われる。シャイボ事件とは、すでに10年以上も前にアメリカ、カトリックの強いフロリダ州で起こった事件である。それは政治家、大統領、果てはローマ教皇も巻き込んで国を二分する議論を巻き起こし、ABCを始めアメリカのテレビ局ばかりか、外国でもそのニュースが連日報じられるような大事件だった。

「テリー・シャイボ事件」を手短に説明しよう。

 フロリダ州に住む女性、テリー・シャイボさんは、1990年摂食障害から心臓発作を起こし、重い脳障害のためほぼ植物状態(遷延性意識障害)となった。それは通常の植物状態とは異なり、時々は目を見開いている、「あー」などの声を立てる、目の前で風船を動かすと後を追う、など意識があるような症状も示していた。

 だが、1998年シャイボさんの夫は、「テリーは無意味な延命よりも尊厳死を望んでいた」として、生命維持装置の取り外しを決意し、テリーさんの後見人として、フロリダ州の裁判所に申し立てを行った。それに対して、娘の回復を信じるテリーさんの両親はこれに反対。「テリーは植物状態ではなく、回復の見込みがあり、本人は治療停止を望んではいなかった」として、真っ向から対立した。

 2000年に始まった審理では夫が勝訴。州の二審、最高裁でも一審が支持され、2003年9月に生命維持装置の取り外し命令が出て、10月に取り外しが行われた。

 ところが、ブッシュ州知事(ブッシュ大統領の弟)もこの尊厳死の阻止に動きだし、州知事の発令により、装置が再挿入。

 そこで今度は夫が州知事を訴え、それに対して州知事が連邦裁判所に上訴するという事態に発展。そして2005年、連邦裁判所は知事の上訴を受理せず、再びテリーの生命維持装置の取り外し命令が下された。この結果を受け、その年の3月18日、テリーさんは栄養と水分の補給が断たれる。13日後の31日、テリーさんはフロリダ州のホスピスで息を引き取った。

 4月15日には、テリーさんの治療に当たっていた専門家チームが記者会見し、「植物状態を否定する証拠はなかった」と述べた――(以上ABCなどのニュースに基づいて)。


 二つの事件の共通点は、①ほぼ植物状態で、②本人の「事前指示書」がなく、③後見人(代理人)の意見が分かれたという点である。

 このシャイボ事件と同じように、フランスで起きたランベール事件も、10年以上の長期にわたり国を二分する議論を呼んだ。しかしいたずらに10年が過ぎたのではない。この事件を通して、「事前指示書」、「代理人」などの制度が議論されてきたのだ。今回はこの事件の最中にフランスで成立した新法について注目したい。

持続的な深い鎮静法

 2016年2月、フランスで新法が成立した。それが『クレイス・レオネッティ法』で、終末期の患者に「ソフトな安楽死」、つまり眠らせたまま死に着地させるということを世界で初めて許容した法律である。

 栄養や水分の静脈内注入をしているランベール氏からそれらを外し安らかに死に至らせるためには、ランベール氏に「持続的で深い鎮静(セデーション)」をかけて、深く眠らせる、ということなのである。