ここに注意しべきポイントがあります。転職エージェントの「軽くでいいので一度先方とお会いして、ざっくばらんに話しをしてみません」という何とも魅力的な言葉と押しの強さに負けてしまったら最後、実は先方と会っただけであなたはその会社の採用プロセスにエントリーしたことになってしまいます。というのも、候補者を最初にその企業に紹介した転職エージェントが交渉の権利を持つからです。同じ企業であっても、あなたのことを他の転職エージェントが先に紹介してしまったら、そのエージェントは交渉権を失ってしまうので必死なのです。どんな形でもよいので、企業の担当者とあなたをセッティングすることに命を燃やしてきます。それが転職エージェントなのです。

 採用の選考のプロセスになったら、どんどん話が進んでいきます。無理やりではないですが、言葉巧みに話を進め、「それなら・・・」と断りにくい状況に持ち込まれます。

 内定が出たら、返事の期限を切られ(ポジション等にもよりますが2週間から数カ月)、転職することを説得してきます。説得するだけでなく、転職する前提で、転職しやすいようにアドバイスしてくれるので始末が悪いです。そこで、「この人は悪い人ではないし、断りにくい。確かに転職先の条件も悪くない」と押し切られてしまう人も多いでしょう。しかし、転職で悩むポイントは決まっています。そこをうまく対応して転職を促すよう、彼らは営業教育が徹底されているのです。

「なんだ! 裏側ではそんなことを考えているのか」と憤ってはいけません。別に転職エージェントが悪なのではありません。彼らもビジネスだから営業の運びが上手いだけです。アパレルショップの店員さんが、服を勧めるのが上手なのと一緒です。いや、転職エージェントの人たちの営業力はそれ以上かもしれません。なにしろ、転職エージェントを退職し、他業界でも営業のハイパフォーマーとして活躍している人も多いのですから。

エージェントとの付き合いは「情報収集のみ」と割り切る

 もうお分かりでしょう。転職エージェントという存在は、転職市場や傾向についての情報屋と割り切って付き合うと頼もしい味方になります。同業内の転職であればひとりでに他社の動向の噂や情報も入ってくるでしょうが、異業界となると、その業界に精通した友人・知人がいない限り情報は取れませんし、もし情報収集をしていることが、今の職場にどこからか漏れでもしたら会社に居づらくなってしまいます。そんなときに、転職エージェントは頼りになるのです。

 ただし、相談していいのは情報収集までです。あなたの10年後のキャリアを相談しても転職エージェントは「今の転職市場の傾向と求人情報」しか知らないので、寄り添ってくれることしかできないのです。

 ベテランで経験豊富な転職エージェントもいますが、彼・彼女が知り得たキャリアは転職した人材が辿った経緯という「過去」でしかありません。しかも「転職」を行った上での前提が付きます。過去のキャリアの考え方が通用しない時代になったことは、あなたは感じているでしょう。過去の経験だと、あなたはどんなキャリアのオプションがあってということは参考情報にしかすぎません。

 鵜呑みにして委ねるのは危険です。あなたは、今から未来のキャリアの組み立て方を知りたいので、キャリアを見ている視点が真逆なのです。

「いい人だから」と転職エージェントに選択を任せてしまうのは、洋服のコーディネートを全部お任せにしてしまうどころではすみません。人生を他人に委ねることと一緒なので、非常に危険です。特にあなたが優秀であればあるほど、です。

 というのも、優秀な人材はエージェントにとっても「おいしい人材」です。転職から3年くらいたったころ、お世話になったエージェントから「たまには状況をランチかお茶しながら情報交換しませんか?」というメールが届くことになります。そこで会ってみると「そろそろ次のステージに向かうタイミングでは? 実は表に出ていない、こういう求人があります」と案件を出してくる、なんてことがよくあるのです。

 またまたその誘いに乗ってしまえば、自分の意志ではなく、エージェントのビジネスの一環で数年置きに転職させられてしまうようなものです。それも、「今よりちょっといい」求人なので、転職をしながらキャリアアップしているように他者からは見えるのがヤバいところです。

 逆に言えば、あなたが転職市場で売れなくなったタイミングから、そのエージェントは去っていき、なしのつぶてになります。そう、エージェントはビジネスなので転職市場で商品価値がなくなれば、その瞬間に平気で見捨てるのです。

 ですから、「転職エージェントとの付き合いは情報収集」と割り切ることです。そうすれば主導権はあなたにあり、振り回されることもなく、win-winの関係が築けます。たくさんの転職エージェントと情報交換しながら、本当に信頼できる人と求人を探せばいいでしょう。中には、あなたの職務経歴や持ち味をみて、価値観がフィットし、活躍できるポジションを交渉してゼロから作り上げてくれる転職エージェントも多く実在します。

 次回は「転職先」を見切る基準を解説します。同じ事実でも捉え方や味方を変えると、あなたにとって正しい真実が見えてきます。