「『浮動マネー約30兆円』の争奪戦に向けて、営業に専門チームでもつくったらどうですか」。1月某日、ある名古屋の地場証券幹部のもとに業界関係者が訪れ、こんな提案を寄せた。
2012年末までに、個人向け国債の償還とゆうちょ銀行の定額貯金集中満期が重なり、家計に約30兆円が払い戻される。次の投資先を探すことになる約30兆円の「浮動マネー」。住友信託銀行の試算によると、今年はそのなかでも13.2兆円が償還、満期を迎える「当たり年」だ。
浮動マネーの取り込みをねらって、大手銀行や証券会社はすでに定期預金の金利上乗せキャンペーンや営業強化に乗り出している。大和証券は、専用のパンフレット「満期金・償還金どうしますか?」を作成。「他の金融機関に流れないよう、いろんな商品を紹介していく」(名古屋支店の苅田恭治支店長)と、受け皿を整える。
約30兆円のうち、株式や債券などリスク性金融商品に向かうのは「2割くらいになるのでは」と、共立総合研究所の江口忍副社長は語る。1月に米格付け会社スタンダード・アンド・プアーズ(S&P)が日本国債の格付けを「AA」から「AAマイナス」に引き下げたことも、投資先の国債以外への振り向けを後押しするとみられる。
全国の「1割経済」といわれる東海地域では、ざっと見積もって6000億円規模がリスク性金融商品に流れそう。経営悪化に苦しむ地場証券は、静かに腕まくりする。東海地域の浮動マネー6000億円の行方は。
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地場証券の経営を取り巻く環境は厳しい。東海4県下(愛知・岐阜・三重・静岡)の地場証券の営業収益合計(東海財務局まとめ)は、過去5年間、右肩下がり。証券会社数の減少なども背景にあるが、直近の2010年3月期の営業収益は2006年から半減した。最終損益も、2008年から3期連続赤字。経費削減の涙ぐましい努力にもかかわらず、下げ止まらない収益の悪化に苦しんでいる。