東海地区の金融機関の決算計数にある異変が起きている。不良債権比率(金融再生法ベース)が上昇しているにもかかわらず、不良債権を処理するための費用である与信コストが減少しているのだ。

 金融機関は一般的に、融資先の財務や返済状況を勘案して正常債権か不良債権かを区別する。債権の回収ができない場合に備え、その「不良度」に応じて引当金を積んでおく。単純に考えると、不良債権比率が上昇していれば、与信コストは増えるはずだ。

 東海3県(愛知・岐阜・三重)に本店を構える地方銀行8行の2011年4~6月期決算をみると、三重銀行と第三銀行を除く6行で不良債権比率が上昇したにも関わらず、十六銀行など4行で与信コストが前年同期実績を下回った。東海3県の信用金庫の前3月期決算をみても27信金中18信金の不良債権比率が上昇している一方、総じて「与信コストは減少している」という。

 この現象の要因を探ってみると、政府による支援策と事業性融資の伸び悩みがある。そのからくりを分析し、同時に今後の方向性を探った。

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 与信コストは、正常債権などに対して積む「一般貸倒引当金」、不良債権に対して手厚く積む「個別貸倒引当金」を含む不良債権処理額の合計が基本。引当率は「一般」より「個別」の方が高く、企業業績が好転し不良債権が正常化した場合には引当金が戻り、その分、与信コストは少なくなる。一般貸倒引当金は「正常先」と「要注意先」に区分された借り手を対象に、過去の貸倒実績率や倒産確率に基づいて予想損失額を算定する。

 一方、個別貸倒引当金は「破たん懸念先」や「実質破たん先」「破たん先」に区分された不良債権を対象に積む。金融機関は個別債務者ごとに予想損失額を算定し、融資額の50~100%の範囲で引当金を積むケースが多い。