栗山英樹・著『稚心を去る』

 もっと言うなら、中田翔はまだまだ頑張ってはいない。彼が本気で頑張ったら、こんな数字で終わるはずがないのだ。まだ、そこが救いだ。
 
 もうこれ以上頑張れないというほど頑張ってこの数字なら、これが自分の実力だと納得してしまう可能性がある。それが一番怖い。でも、まだ頑張り切れていないなら、これからもっと頑張りようがある。
 
 発奮したり、もっと頑張ろうと思ったり、そういうものの根っこにあるのは「志」だ。

 それはファイターズが大事にしている「人間力」にも通じる。こうしたい、こうなりたいという「志」から始まって、そこに対して何をしようとしたのか、そして何ができるのか。

 一所懸命やるのはわかる。では、何のために一所懸命やるのか、何のために全力疾走するのか。それは勝つため、結果を残すため。だから、ただやり続けてみたところでわからないことはたくさんある。勝って、はじめてわかることがある。勝つことを経験してみないと、直結しないことがたくさんある。
 
 そういうふうに単純に考えていかないと、何ごとも前に進まない。

「四番」が大谷翔平ではなく中田翔だった理由

 ホームラン王のレアードがいても、あの大谷翔平がいても、それでも中田翔を四番で使い続けてきたのには、もう一つ明確な理由がある。
 
 たしかに、大谷の飛距離は半端じゃない。フリーバッティングだと、札幌ドームのライトスタンド上方にある大型ビジョンを直撃するんじゃないかと思うこともよくあった。いまやメジャーリーグで勝負するようになって、そのスケールはますます大きくなっている印象だ。