でも、少なくともファイターズにいた当時の彼には、明らかに苦手なボールがあり、残念ながら打てないタイプのピッチャーは、どうやっても打てない感じがあった。
それに対して、中田は「このタイプのピッチャーが来ると、からっきしダメ」という相手がいない。少しくらい苦手意識があっても、打つときは打つ。自分がどんな状態でも、どんなピッチャーが来ても、何とかしてくれそうな雰囲気があるというのは、とても重要なことだ。その可能性が高くないと、チームは背負えない。
「当たればデカい」ではないが、たとえ調子が悪くても、フルスイングできるというのも大きい。ホームランバッターのすごさってこういうことなんだろうな、というのは、これまで何度も感じさせられてきた。
そして何より、彼の最大のすごみは、状態が上がってきたときにある。状態が上がって、本当に集中すると、中田は打てないピッチャーがいなくなる。相手との力関係で、どうしても打てないということがまったくない。どんなピッチャーが、どんなボールを投げてきても、打ててしまう。みんなが打てなくて苦しんでいるとき、チームを救ってくれるというのはそういうことだ。
どんなにすごいバッターでも、いつも打つことはできない。でも、いつも期待させるバッターでいることはできる。
そうじゃなきゃ、四番は張れないということだ。(『稚心を去る』栗山英樹・著より再構成)