「不動産テック」はいずれも既存のイメージを大きく変えることで、我々に新たなサービスを提供し、一方でビジネスチャンスを提供しているといえる。

 前編では「VR、IoT…テクノロジーが変える不動産の買い手と売り手」と題し、その代表的なサービス領域について解説した。

 ただし、その浸透具合をみれば、まだまだ課題が多いのが現実だ。その課題とはどんなところにあるのか。解決策はあるのか――(文・河西泰)

日本国内おける不動産テック拡大の課題

 不動産テックの普及・拡大にとって、国内で一番のハードルになっているものは何か? 株式会社NTTデータ経営研究所・ビジネストランスフォーメーションユニット・シニアマネージャーの川戸温志氏はこう指摘する。

「不動産テック普及拡大の一番のアキレス腱は、不動産情報基盤の整備遅れです。米国で爆発的に不動産テック(海外ではPropTechやReal Estate Techと呼ばれる)が広がった背景には、MLSの存在があります」

 MLSとはMultiple Listing Service(マルチ・リスティング・サービス)の略で、物件情報などの不動産データベース。エリアごとに民間のMLS運営会社が運営しており、物件の成約価格や広さ、売買履歴や修繕履歴、固定資産税や課税評価額、ローン借入額、登記情報などを会員であれば誰でも閲覧することができる。

「物件情報だけでなく、周辺地域の情報や地盤情報、市場分析レポートなども入手することができることが特徴です」(川戸氏)

 日本国内においてMLSと同じような機能を持つものに、REINS(レインズ・REAL ESTATE INFORMATION NETWORK SYSTEM)、不動産流通標準情報システムがある。川戸氏はこのレインズの課題を大きく5つ挙げた。

「REINSにはまだ課題が多い。その1点目として、不動産情報の網羅性の欠如が挙げられます。REINSは、一般媒介契約の物件は登録義務が無いため物件情報が登録されていません。さらに空き家、農地・森林、公的不動産などは登録されていません」

 2点目はデータ不足だ。2016年より「性能」、「建物検査」、「住宅履歴」、「リフォーム状況」、「取引状況管理」の項目が追加されるなど、進歩がみられているものの、まだまだ十分とは言えない。

「 『ハザードマップ』、『学区情報』、『犯罪情報』、『周辺施設』、『町内会情報』、上下水道やガスなど『インフラ情報』などのデータ項目がありません。加えて固定資産税、都市計画税、相続税などの税金に関するデータ項目もない」

 そして川戸氏は課題の3つ目、4つ目を指摘する。