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(文:内藤 順)

 イノベーションが加速する条件とは何か? 先端テクノロジーの開花か、組織の多様性か、それともポテンシャルのある市場環境か。様々な要素が考えられるが、最も重要なのは人間離れした男たちの、人間らしい競争意識ではないか――そんなことを痛感させられる。

 本書は宇宙ビジネスの最前線を描いた一冊である。数多ある類書と一線を画すのは、イーロン・マスクとジェフ・ベゾス――この二人にフォーカスを絞っている点だ。二人の胸のうちに肉薄し、対抗意識を物語の構造に織り込んだ。論争、訴訟、そして心理戦による駆け引き。なにより二人のアプローチが対照的なのである。

着陸技術を巡って二人は切磋琢磨

 宇宙への挑戦は、革新と停滞の物語でもある。全世界を熱狂させたアポロ11号の月面着陸から約半世紀。その間、ロケット技術の進歩はほとんどなかったといっても過言ではない。21世紀初頭にロシアと米国で打ち上げられたロケットは、アポロ時代のものと大差なかったという。それだけではない。少し前までの宇宙ビジネスには、冷戦時のライバル関係もなければ、資金や政治的意志も存在しなかったのだ。

 この状況に業を煮やしたのが、幼少時代に宇宙に熱狂したシリコンバレーの起業家の二人である。二人の着眼点は非常に似通ったものであった。停滞状況に風穴を開けるためには、宇宙飛行のコストを下げ、宇宙へのアクセシビリティを高めるよりほかはないと考えたのである。