先日、鉄欠乏性貧血の患者さんに鉄剤を処方しようとしたら「鉄剤を摂るのは身体に悪いと聞きました。大丈夫ですか?」と嫌がられた。
若い陸上選手が、貧血の改善あるいは成績の向上目的とした鉄剤の補充をしていたことについて報道があったが、これを聞いたらしい。
「いや、だって貴方、体内の鉄分が不足しているせいで貧血になってしんどくなっているのに、足りない分を入れないのはおかしくないですか、放っておいたらもっと身体に悪いですよねぇ」
そう言って、適切な量を入れることは問題ないことを納得してもらい処方をした。
若い陸上選手の鉄剤の過剰投与に関して、日本陸上連盟は、鉄剤注射による鉄剤投与を治療目的以外では原則として禁止するという声明を出した。
患者の詳細な経過までは私は知らない。しかし、陸連の声明を聞いたときに、違和感を覚えずにはいられなかった。
理解してほしいことは、鉄剤の投与方法は、内服だけでなく、注射あるいは点滴で静脈に直接入れる方法も、すでに安全性が確認され、医療行為の1つとして確立された方法であることだ。
あたかもドーピングと同じであるかのように言われる筋合いのものではない。そして適切な投与方法と投与量は、医師と患者の間において決められるべきということだ。