なぜ、このような制度を作ったのだろうか。中山氏は、ふくやの創業理念にルーツがあるという。

「当社の創業者は、戦後間もない頃に、何か人の役に立つようなことに全力を注ごうという思いでこの店を作りました。今でも会社の理念として、地域や人の役に立っていくことには、非常に強い思いを持っています。ですので、働いている社員一人ひとりが自分がいるコミュニティに入っていって、そこの人たちの役に立っていくような活動をしてほしいと思っています。草の根的な地域とのつながり、地域の役に立っていくのを、会社としても支援したいのです」

 この取り組みは、地域への貢献のみならず、会社の本業にとってもプラスの面があると中山氏は続ける。

「会社の中では肩書きで仕事ができる部分はあると思いますが、地域ではそういうのは関係ないですよね。その人自身の人間力がないと、ものごとを動かしていけません。また、PTAの活動では、いろいろな人との折衝や学校との調整がありますので、すごく勉強になるでしょうし、そこでのネットワークも広がっていくでしょう」

 近年、働き方や生き方を見直す中で、「会社以外のコミュニティ」への参加が重要だと言われる。その考え方を、ふくやは30年近く前から先取りしていたということになる。

 また、この制度は副業とは異なる地域活動を支援するものだが、「働き方改革」の中で言われる副業の推進のように、個人の意識やスキルを生かした活動の幅を広げていくきっかけになるかもしれない。

「当たり前」を通り越して「誇り」へ

 社員へのヒアリングなど綿密な配慮と、「当たり前と思わない」ようにする意識の醸成により、ふくやの取り組みは今や文化と言えるほどに定着した。では、これから先、どのような展開が待っているのか。

 制度は作っただけではなく、それを定着させ会社の文化として育てていくためには、綿密な気配りを通じて、働く人たちの意識も育てていく必要がある。その制度があることを「当たり前」と思わず、むしろ「誇り」として胸を張れるような、会社のあり方、社員の働き方を考えていくべきなのかもしれない。