しかし、この数か月の経緯をみるに、官の側との丁寧な調整を積み重ね、会社法上も産業競争力強化法上も適法かつ適正な手順によって合理的に取締役会で決定した事項について、当初、論点になっていた報酬の問題だけでなく、広範な事項について後から覆されるリスクが高いガバナンス実態、意思決定メカニズムになっていることが露呈しました。世界的なリスクキャピタルの競争の舞台は、法的な適正手続きや約束事への信頼、そしてその前提で自らの能力と裁量でスピーディかつ果敢に職務遂行し、その結果に対する厳しい成果評価に規律され処遇されるプロフェッショナリズムへの信頼で成り立っています。しかし、今回の騒動の経緯、それが公知となっている状況に鑑みるに、JICと言う投資機関はそうした法的安定性や信頼度が低い、あるいはプロフェッショナルな投資スタイル、処遇スタイルの実現が難しい組織であると言う見方が、日々、世界的に強まっていく事態となっています。
まことに残念なことですが、これでは内外のトッププロフェッショナルを集め、また世界トップレベルのエリート・リミテッドパートナー(主にリミテッドパートナー(LP)と言う立場で資金運用を行う機関の中でも長期的な実績と規模において世界的に尊敬されている機関投資家)やエリート・ジェネラルパートナー(LP投資家から資金を預かり直接の投資や運用を担うプロフェッショナルまたはプロフェッショナル組織のグローバルな一流どころ)と組んで仕事をすることは今後、極めて難しいとみるべきでしょう。すなわち当初の理念であるグローバルトップレベルの政府系長期リスクキャピタル投資機関の実現は非常に難しくなったということです。私自身も、かかる意思決定メカニズムの中でこの状況を挽回し、世界のトッププロフェッショナルコミュニティにおいてJICの信用を取り戻すことに貢献できる力を持ち合わせているとは思えません。
まさにJICがやろうとしていることの先行ロールモデルファンドづくりについては、バイオインダストリーの世界的なレジェンドであり、現役のトップキャピタリストでもある金子恭規さんが、田中社長の尽力もあってJICの副社長に就任してくださる僥倖があり、「日本国の未来のためなら」という心意気で、その圧倒的な実績と信用、ネットワークをフルに活用した獅子奮迅の活躍のおかげで、普通ならあり得ないような豪華かつ若手で働き盛りのGPメンバーのリクルーティングに成功し、米国、西海岸にバイオベンチャーファンドが認可・設立されたところでした。この進展に社外取締役一同も、本当に大きな希望と期待を抱いていました。しかしこれとて、一連の騒動を経て、また、JIC側の執行部体制も大きく変わる可能性が高いなか、現在の様なグローバルスケールの超一級GPメンバーを維持することは極めて難しくなるのではないか、と思うと、かえすがえす残念です。千載一遇、いや一期一会とも言うべき、世界のベンチャー投資の頂上領域へ一流プレーヤーとして日本ベースの組織がアクセスするチャンス、そこで学び成長した多くの人材が将来、世界的なプレーヤーへと飛び立っていく可能性、そうした人材が日本全国のベンチャーを世界的レベルで活性化してくれる可能性を私たちは失おうとしているのかもしれないのですから。