究極の自主性を重んじるイチローの母校

愛知工業大学名電高校吹奏楽部(愛知)

 イチローの母校として知られる愛工大名電。吹奏楽部は全日本吹奏楽コンクール・高校の部に最多出場している。部員は約180人だ。

 顧問の伊藤宏樹先生は、とにかく自主性と部員同士のコミュニケーションを大切にしている。合奏練習の際、一般的には顧問(=指揮者)が「ここはもっとこう演奏しなさい」といった指示を与える。もちろん、愛工大名電でも伊藤先生が指示することはあるが、合奏が止まると部員たちはすぐに隣りにいる他の部員と「ここはこうしよう」と自主的に相談し合う。あるいは、テンポやリズムが難しいところでは、隣にいる部員が奏者の肩を叩いてテンポをとり、演奏が止まったところでアドバイスをする。

 先輩も後輩も関係なしに指摘し合うのがポイントだ。「音楽の前にみな平等」「隣にいる人を先生だと思え」が伊藤先生のポリシーなのだ。180人という部員たちを顧問ひとりで引っ張っていくのは難しい。だからこそ、大所帯に自主性が必要なのだが、部員たちもお互いにアドバイスし合うことで、注意深く演奏を聴いたり考えを言葉に変換したりするトレーニングになる。

「隣にいる人を先生だと思え」伊藤宏樹先生の指導が浸透する(著者撮影)。

 部活動を続ける中では様々な問題が起きる。無断欠席する部員、まわりと衝突する部員、退部を申し出てくる部員・・・。そんなときも伊藤先生は部長・副部長などを中心に他の部員たちを相手のところへ会いにいかせる。当の部員を責めたり反省をさせたりするのではなく、「こんな事態になったのは、部全体に何か問題があったからかもしれない」という気持ちで接し、相手の意見や思いに耳を傾けるためだ。すると、退部しかけていた部員が戻ってきたり、部の雰囲気や運営が改善されたりする。

 徹底したコミュニケーションによって音楽もより良いものになり、それが全国大会での成績に結びついているのだ。

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 今回は代表的な3つの吹奏楽部の指導法をご紹介したが、全国には他にもまだ多くの優れた指導者が存在している。思春期の高校生の大集団をマネジメントする手腕、人間的・音楽的な成長を促す方法は見事であり、それは最終的なアウトプットの「音楽」の素晴らしさによって証明されている。

 機会があれば、ぜひコンクールやコンサート、あるいはCDや動画配信サイトなどでこれらの高校吹奏楽部の演奏に触れていただきたい。なお、筆者がパーソナリティを務めるインターネットラジオ『Bravo Brass 〜ブラバンピープル集まれ!オザワ部長のLet's吹奏楽部〜』でも、毎週土曜の夜10時から高校生やプロの演奏を多数お届けしている。一度耳を傾けていただければ幸いだ。