「現場」で「そのままの状態」を観測することの意義
小惑星探査機はやぶさ2は、小惑星リュウグウ表面にタッチダウン、サンプルを採取し、2020年末に地上に持ち帰る計画だ。一方、大きさ30cm立方に満たない小型着陸機MASCOTは、約16時間というわずかな寿命で、リュウグウ表面で観測を行う。サンプルを持ち帰れば、地上の最先端分析器で調べられるのに、なぜわざわざ苦労して表面で観測するのか?
「(はやぶさ2はサンプルを採るために、リュウグウの表面に)弾丸を打ってサンプルを取得する。つまり小惑星表面の状態を壊してしまう。また(地球帰還時は)大気圏に突入するために揺さぶられる。つまり元の表面状態は保たない恐れがある。一方、MASCOTは小惑星表面をそのままの状態で観測することができるのが最大のポイント」と、宇宙航空研究開発機構(JAXA)のMASCOT担当である岡田達明准教授は、MASCOTの現場観測の意義を説明する。「表面の物理的な状態を壊すことなく、観測できる価値は非常に大きい」のだと。
はやぶさ2ミッションでは、さまざまなスケールで小惑星リュウグウを徹底的に調べる。「探査機本体は、小惑星全体を(少し離れた場所から)リモートセンシングして物質の分布を調べる。地上に持ち帰ったサンプルは、mm以下の精度で詳細に調べる。MASCOTはその中間になる」(はやぶさ2ミッションマネジャー吉川真准教授)。
MASCOTは4種類の観測機器を搭載しているが、注目されるのは「分光顕微鏡(マイクロメガ)」。鉱物の組成や特性を調査する。期待される成果は、水を含む鉱物や有機物が存在するか。はやぶさ2のリモートセンシング観測によって、リュウグウは想定よりも水分が少ないことが明らかになっている。「分光顕微鏡は数mmの領域を多数のピクセルに分けて観測する。全体の平均として水がなくても、個々の粒子で見ると違うかもしれない」(岡田准教授)。
MASCOTは分光顕微鏡のほか、磁力計、熱放射計、広角カメラをもつ。これらすべての観測機器が予定の16時間を超えて順調に作動し、データははやぶさ2本体に送られている。詳細な解析は始まったばかりだが、とり立てのデータが、次々とはやぶさ2の着陸地選定に生かされている。