安倍政権の危機管理は大丈夫か

 安倍首相は5年前に「国が前面に出る」と約束した後ずっと、原発の問題を避けてきた。官邸の司令塔とされる今井尚哉秘書官(経産省出身)も、処理の方針を示さない。それが再稼動も「トリチウム水」も前進しない最大の原因である。今の政権では、官邸の意向がはっきりしないと誰も動けない。

 原子力は不人気な問題である。それに手をつけないで先送りすることは、政治的には賢明だった。憲法改正のためには、ポピュリズム的手法も必要だったのかもしれない。しかし3期目に入ると予想される安倍政権が、電力危機のリスクを放置していていいのだろうか。

 日本の電力供給の安定性は世界でもトップレベルだが、それは(よくも悪くも)電力会社の経営に余裕があったからだ。電力会社を追い詰めると経営は合理化するが、危機管理に必要なインフラの冗長性は小さくなる。首都圏で直下型大地震が起こると、北海道のような大停電が起こってもおかしくない。

 地震を止めることはできないが、大停電を止めることはできる。特に今回の場合は、原発再稼動という当たり前のことをしていれば、こんなことにはならなかった。北海道電力は「過去に120万~130万キロワットの供給が失われた際の対応は検証していたが、3基が同時に停止する事態は検討していなかった」というが、それは逆だろう。

 原発を動かさないと大規模停電が起こる可能性は、ずっと指摘されてきた。特に北海道は、冬に停電すると凍死者が出るおそれがあるので危険だと言われてきたが、電力会社も経産省もそういう事態を「想定外」にしてきた。それを想定すると、原発再稼動しか答がないからだ。

 安倍政権は電力会社を悪者にして原子力の問題から逃げてきたが、そろそろ限界は近い。北海道の電力危機は、次のもっと大きな危機を警告しているのではないか。