もちろん言論の自由は尊重されねばならない。だが、民主主義を堅持し、平和主義を唱えるいまの日本をナチス・ドイツに重ね合わせるというのは、あまりに根拠が乏しく、説得力に欠ける。国際情勢の根本的な変化、日本の国内の現状などをまったく無視した、思い込みの激しい暴論といっても過言ではない。

中国も日本を「悪魔化」

 朝日新聞が、敵とみなす対象をナチスなどになぞらえる手法は今に始まったことではない。私はここ数年でも『なにがおかしいのか? 朝日新聞』『朝日新聞は日本の「宝」である』といった自書でその種の実例を多数紹介してきた。

 つい最近の朝日新聞朝刊(5月27日)でも編集委員の大野博人記者が「日曜に想う」というコラムで、ナチス・ドイツに協力したフランス人元エリート官僚を日本の官僚と重ねて、安倍政権を非難していた。2015年8月には朝日新聞の特別編集委員の富永格記者が、ナチス支援者が安倍晋三政権の支持者であるとする内容をツイッターに書き込み、削除するという出来事もあった。

 敵を、悪の元凶という認定が定着しているヒトラー政権などになぞらえ、両者は似ているとか同様だとするレトリック(言辞)は、米国や英国では悪魔化(demonization)と呼ばれる。

 2014年から2015年にかけて、中国政府が自国の国連大使や米英駐在大使を動員して、日本や安倍首相への糾弾キャンペーンを打ち上げたことがある。「日本は核武装を進めている」「日本人は世界でも最も野蛮で残酷」「安倍首相はハリー・ポッターの悪の魔法使い」というような誹謗だった。このときは、英国の有力雑誌エコノミストや米国の中国専門家の多くが「中国による日本の悪魔化」と断じて、中国を非難した。

 朝日新聞のナチス・ドイツへの言及も、そんな悪魔化という言葉を連想させてしまう。