朝日新聞と東京大学医科学研究所(東大医科研)の争いが、ついに法廷闘争に突入しました。

 2010年10月15日、朝日新聞は朝刊1面で「東大医科研でワクチン被験者出血、他の試験病院に伝えず」という記事を掲載しました。

 それは、こういう内容でした。東大医科研が2008年に「がんペプチドワクチン」の臨床試験を行いました。その際に発生した被験者の「重篤な有害事象」(消化管出血)を、同種のペプチドを使う他の試験病院に伝えていなかった、というのです。

 本記事内で朝日新聞は「薬の開発優先、批判免れない」と結論づけていました。翌日にも「東大医科研/研究者の良心が問われる」という社説を掲載し、東大医科研を厳しく批判していました。

「事実誤認」だと医療界が一斉に抗議

 この報道に対して、関係者や患者団体からは一斉に抗議が起こりました。

 東大医科研は「法的、医学的にも倫理上も問題ない」として反論しました。日本癌学会は抗議声明文を出し、「大きな事実誤認に基づいて情報をゆがめ、読者を誤った理解へと誘導する内容」と非難しました。日本医学会も「事実を歪曲した朝日新聞がんペプチドワクチン療法報道」とコメントを出しました。

 さらに、がん患者団体も、「がん臨床研究の適切な推進に関する声明文」にて「誤解を与えるような不適切な報道ではなく、事実をわかりやすく伝えるよう、冷静な報道を求めます」と表明しています。

 こうした非難を受けて、朝日新聞は11月30日に、「何が起きた?/どこが問題か/社説の意図は」と題して、これまでの経緯の説明と、医療界からの非難に対する反論を述べました。さらに12月6日には、記事内に掲載した関係者のコメントを「捏造の疑いが強い」と指摘した医師らに、訴訟を視野に入れた内容証明郵便を送付しました。

 そして12月8日、東大医科研の中村祐輔教授らは、朝日新聞社と記事を執筆した記者に損害賠償と謝罪広告掲載を求め、東京地裁に提訴したのです。