中国のメディアが面白い。中国の新聞・テレビと言えば「情報統制」という図式を思い描くが、これがだいぶ変化しているのだ。

 もちろん、チベット問題や天安門事件など、共産党の政権維持に不都合なことは報道しないのが大前提。しかし、それを差し引いたとしても十分に楽しめる。

 中国が国家として成長するスピードに合わせるように、記者も紙面もずいぶん成長しているなと実感する。以前よりも、ニュースの伝え方が変化に富むようになってきた。

 上海在住の梁信さん(仮名、男性、50代)は、「メディアが大きく変わったきっかけは、2008年の四川大地震ではないか」と話す。

 梁信さんは、地元紙「新民晩報」を10年近く購読している。その紙面の変化を次のように語る。「四川大地震では、被災地への募金が、本当にそれを必要としている人に届けられていないことが明らかになった。記者の意識もその頃から変わったのだろう。官僚の腐敗を暴くような記事が増えてきた」

 四川大地震がもたらしたものは、物理的な被害だけではなかった。市民の善意が地方政府の役人の懐に落ちてしまうという社会構造の暗部も露呈されたのだ。

 清華大学公共管理学院の調べでは、700億元を超える寄付金のうち、8割が地元政府に吸い取られたという。そんな火事場泥棒のような腐敗を暴き、市民に伝えたのが、ネットや新聞、テレビの報道だった。

次々に暴かれた地方官僚の腐敗ぶり

 四川大地震をきっかけに、少なくとも上海における報道が「政府寄り」から「市民目線」に近づいたことは確かに実感できる。

 2008年から2009年にかけて、上海のメディアは以下のような官僚の腐敗を次々と暴き、記事にして伝えた。

 上海市浦東新区の元副区長は、長期にわたって土地取引の特別な権利を握り、自分と妻名義の資産として16カ所の土地を隠し持っていた。

 また、上海市の外高橋保税区管理委員会の役人は、たった1人で29戸のマンションを所有していることが発覚した。