そこで、少なからぬ米海軍関係者などの間から、南シナ海で米海軍艦艇を中国当局が中国領と主張している人工島や島嶼環礁に接近させても、「無害通航」の範囲内で通過しているかぎり、FONOPなど実施してもしなくても意味が無い、という批判が生ずるのも無理からぬところである。

あと数年で勝敗は決する

 実際のところ、「意味が無い」どころか、米海軍が「無害通航」とみなせる範囲内でのFONOPを実施すればするほど、中国側は「アメリカによる軍事的挑発を受けた」ことを口実として、ますます大っぴらに、そして加速度的に、南沙諸島人工島や西沙諸島の軍備を増強しているというのが現実だ。

 中国がそれらの島嶼環礁を要塞化すればするほど、米海軍が南シナ海でのFONOPにおいて軍事的威嚇行動を実施することなどますますできなくなり、「無害通航」に遵い12海里以内海域をできるだけ直線的にかつ速やかに通航するのが関の山といった状況になってしまう。

 このような悪循環を断ち切るには、軍事衝突覚悟で、「無害通航」とはみなせないFONOPを実施するしかないが、トランプ政権には、中国との経済戦争の危険を冒す覚悟はあっても、中国との軍事衝突の危険を冒す覚悟はないであろう。したがって、あと数年後も経たないうちに南シナ海での軍事的優勢は完全に中国のものとなることは避けられない趨勢である。