日本の製造企業の問題点は、ものづくりはできても価値づくりができない点にあることを説明してきた。
今回取り上げるのは、その中でも極めて基本的であり、しかも根本的な問題だ。それは、日本企業が魅力のある商品づくりができなくなってきたことだ。
近年、我々経営学者も含めて、「日本企業は単発の商品開発やものづくりはできても、戦略やビジネスモデルが駄目なので、価値づくりができなくなった」とする議論が主流になっている。それらが近年重要になってきたことは間違いないが、そちらへばかり注意が向いてしまい、「商品魅力による価値づくり」という基本がおろそかになってきた。
この点は、以前のコラム「機能を超えた『価値』を創り出す方法」でも概要を説明したが、今回は国際競争力を急速に低下させているデジタル家電や情報・通信機器を念頭に置いて、より具体的に問題点を明らかにし、必要とされるマネジメントのポイントを説明しよう。
「iPad」「Wii」は使っていて気持ちがいい
近年、魅力ある商品の基準が変わってきた。最先端の技術を駆使するだけでは決して魅力ある商品にはならないことが、より明確になってきたのである。
その点を、アップルや任天堂、サムスンなどが証明してくれている。私はアップルマニアではないが、「iPad」を使い始めてから手放せなくなった。多くのソフトをダウンロードしたり、「iTunes」で音楽を買いまくったりしているわけでもない。使っていて気持ちが良くて、中毒性があるのだ。
機能的には問題が多い。ノートPCの代わりになるわけでもないのにiPadだけを持ち歩いて、困ることも少なくない。それでも、使い心地が良いので、持ち歩くのをやめられない。
また、何年か前にソニーの「プレイステーション(PS)3」と任天堂の「Wii」を同時に使い始めたが、今でも毎日のように使うのはWiiだけだ。PS3の方がグラフィックスの凄さなど、技術的なスペックは優れているが、家族と一緒に楽しむのにはWiiの方が簡単だし、しかも使っていて気持ちが良い。
これらは、私だけの特殊な事例ではないだろう。最先端の技術や特別な機能、スペックではない部分での商品魅力が鍵を握り始めた。私はそれを「機能的価値」に対して「意味的価値」と呼んでいる。